第29回
バンダイホビー事業部
岸山 博文 × 福田 瑞樹
ガンダム関連作品の商品として大きな比重を持つガンプラ。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)においても、ガンプラは作品と連動した重要なアイテムとして展開している。今回は、バンダイホビー事業部で『THE ORIGIN』のプラモデルシリーズの開発を担当している岸山博文氏と福田瑞樹氏に、『THE ORIGIN』のプラモデルシリーズの劇中CGとの連動や開発に関するこだわりなどを伺った。
福田 僕はバンダイに入社して、ホビー事業部に配属され、商品企画として最初に関わることになった仕事が『THE ORIGIN』でした。ですので、基本は岸山さんが作った道を歩かせてもらっているという感じですね。
岸山 「何か不具合があったら言ってください」というお声がけをいただいているような関係性が築けているという感じですね。それがなければ、具合の悪い商品が出来上がるようなことも起こり得ますので、バンダイ側の商品開発上の都合が結果入るパターンもあれば、逆にデザイナーさんやCGのスタッフから「こんな風に考えてもらえると嬉しい」と商品開発のテーマを貰うこともあります。映像作品の完成度はもちろんですが、それに付随する関連商品も同時に売れる方がいいという共通した目的があるので、両方でひとつという関係になってきているような気がします。
福田 バンダイ的にも、ホビー事業部とサンライズさんとの関係性は特別ですね。普通であれば、メディア部という部署を通して、版元さんから商品化の許可を受け、商品を作ってチェックしてもらうというやり方をしていることが多いので、直接現場に入らせてもらって、あまつさえ口出しさえさせていただける環境ですから。
岸山 もちろん、東映さんの戦隊シリーズのように、バンダイと東映さんでガッツリと組んでやっている作品もあるので、局所的にはいくつか存在します。ただ、今の関係性は、それとはちょっと違いますね。カトキさんは劇中に登場する機体はプラモデル化された方がいいという指向もありますから、そういう考え方としっかりと組むことで、より良い商品開発ができるという感じになっています。
福田 「MSD」は想像の余地があるところを、模型を使って深めているというところがあります。もともと模型は、自分で好きに作って、好きに改造していける玩具ですから、想像の余地があれば遊びの幅も広がると思っているのです。
福田 それから、『THE ORIGIN』のキットは、関節のフォーマット化を行っているというのも特徴かと思います。ザクⅠもザクⅡも同じ関節構造になっているので、「共通フレームの発展型」のようなニュアンスも表現できるようになっているのです。
岸山 最初の商品であるシャア専用ザクⅡですが、出来上がった商品では前腕部が、ちょっとエッジの立っている形状になっているのです。もっと柔和な感じが良かったという意見もあったので、MSDのドム試作実験機で金型を新しく作るので、よりイメージに近い形状をリトライしているのです。関節機構は同じなので、ドム試作実験機の前腕をシャア専用ザクⅡに付けると、より劇中に近いイメージで完成させることができる。そうした改造も簡単にできますし、そこから発展する形で、外装を交換することでのバリエーション的な展開もいろいろと可能なシリーズとなっています。今までのガンプラは、キット単体の都合で作ってしまうことが多くて、互換性ということがなかなかできなかった。それこそ、同じザクでデザインは同じなのに、設計者が違うからパーツの分割の仕方も違うし、共通化されていなかったから理想の形のザクを作るにはそれなりの技術が必要だったのです。それが、関節の共通化によって、開発する側でもユーザー側でも、いろいろと試すことができる可能性がありますね。
岸山 ガンキャノン最初期型も、これまでのシリーズ同様『THE ORIGIN』らしい仕様になっていますので、今後の展開を想像しつつ楽しんでもらえると嬉しいです。
福田 ジオン軍側も、ランバ・ラルの乗るMS-04 グフも出ますし、スタートしてから3年目にして、ようやくジオン軍の初期開発史がつながって、きちんと並べることができますので合わせて楽しんでほしいです。
リレーインタビュー連載、次回はララァ・スン役の早見沙織さんにご登場いただきます。
—— まずは、お二人がどのような立場として『THE ORIGIN』のプラモデル開発に関わっているのか教えてください。
岸山 作品に関わり始めた当初、僕はバンダイホビー事業部の静岡工場でプラモデルの商品開発を担当していました。『THE ORIGIN』のプラモデルに関しては、より良い商品を作るには設計チームにより的確な情報を伝える必要があるので、劇中に登場するメカのデザインや設定を決める「メカ打ち合わせ」にも参加させてもらっています。「メカ打ち」に参加することによって、商品化に有用な情報を早い段階で知ることができるのです。例えば、第1話のアバンではシャア専用ザクの武器は対艦ライフルが肝であることが判れば、それを盛り込んだ商品仕様にするという感じですね。現在は、僕は部署が変わって開発設計の担当になったので、商品開発に関しては福田に引き継いでいます。とは言え、僕自身が設計するわけではなくて、設計用の図面を描くメンバーをまとめる作業をしているので、劇中の設定を設計に活かせるように福田と一緒にメカ打ちには参加しているという形です。福田 僕はバンダイに入社して、ホビー事業部に配属され、商品企画として最初に関わることになった仕事が『THE ORIGIN』でした。ですので、基本は岸山さんが作った道を歩かせてもらっているという感じですね。
—— 『THE ORIGIN』に関しては、メカ打ちに参加しながら、バンダイ側から商品化に向けた要望を出すようなことはあるのですか?
福田 大きい要望を出すというよりは、ちょっとした調整という程度です。『THE ORIGIN』の現場にはカトキハジメさんなどの、プラモデルに深く関わって居るデザイナーさんが入っているので、こちらの製品化についていろいろと気にしてくれるんです。だからこちらとしても「ここの色はこういう色だと都合がいいです」という話をしやすい環境を作ってもらっています。岸山 「何か不具合があったら言ってください」というお声がけをいただいているような関係性が築けているという感じですね。それがなければ、具合の悪い商品が出来上がるようなことも起こり得ますので、バンダイ側の商品開発上の都合が結果入るパターンもあれば、逆にデザイナーさんやCGのスタッフから「こんな風に考えてもらえると嬉しい」と商品開発のテーマを貰うこともあります。映像作品の完成度はもちろんですが、それに付随する関連商品も同時に売れる方がいいという共通した目的があるので、両方でひとつという関係になってきているような気がします。
—— 他の作品と比べても『THE ORIGIN』という作品では、濃密な関係性でやっているという感じはありますか?
岸山 他のガンダム作品でもメカ打ちには出させてもらいましたが、『THE ORIGIN』の関係性とは違いましたね。福田 バンダイ的にも、ホビー事業部とサンライズさんとの関係性は特別ですね。普通であれば、メディア部という部署を通して、版元さんから商品化の許可を受け、商品を作ってチェックしてもらうというやり方をしていることが多いので、直接現場に入らせてもらって、あまつさえ口出しさえさせていただける環境ですから。
岸山 もちろん、東映さんの戦隊シリーズのように、バンダイと東映さんでガッツリと組んでやっている作品もあるので、局所的にはいくつか存在します。ただ、今の関係性は、それとはちょっと違いますね。カトキさんは劇中に登場する機体はプラモデル化された方がいいという指向もありますから、そういう考え方としっかりと組むことで、より良い商品開発ができるという感じになっています。
—— そもそも、『THE ORIGIN』にはどのような形で関わり始めたのでしょうか?
岸山 当時、別の作品でサンライズのD.I.D.スタジオさんとやりとりをしていまして、スタジオに足を運ぶ機会が多かったんです。そのタイミングが『THE ORIGIN』の準備期間と重なっていたということもあり、本格的に動きはじめたらよりスムーズに作品と商品の連動がされるといいよねということで、かなり早い段階からお声がけいただいたという感じですね。
—— 早くから関わる方が、いろんなところでメリットがあるということでしょうか?
岸山 せっかく『THE ORIGIN』として、一年戦争が始まる前のモビルスーツ開発初期から描くわけですから、今後を見据えて初期の段階からきちんと作り込んでおこうという考えがあったんです。「あの時ちゃんと考えておかなかったから、その後の設定と合わずに失敗しました」ということがないようにしようということですね。例えば、第1話のアバンでムサイが出ますが、CGで作るからこそムサイ級軽巡洋艦にはコムサイと合わせて何機のモビルスーツが搭載できるのかという、大きさを決めておかなければならない。さらに言えば、将来的にガウ攻撃空母を登場させるとするならば、地上に降りた後にガウがコムサイを格納できる大きさでなければならないのです。ということは、最初からガウのサイズ感までも決めておきたいという。昔の手描きアニメでは、そうしたサイズ感は雰囲気でやっていましたが、D.I.D.スタジオはCGをうまく活用してアニメを制作しようとしているところがあるので、きちんと決めておかないと齟齬が出やすいのです。そうしたサイズの割り出しに対して、ホビー事業部で以前リリースしていた1/400スケールのムサイを提供いただけないかと言われて協力をしたり、メカ関連はCGで描くので、ガンプラでは過去にどのようにマーキングなどを作っていたのか教えて欲しいと依頼を受けて、過去のデータを全部共有するということもやっています。劇中で必要になったものを検証もなしになんとなく作ってしまうと、先に進んだ際に「考えが浅かった。でも、作っちゃった」となることが多いので、そうした失敗ができるだけ小さくなるようなやりかたを一緒に進めているという感じですね。
—— ガンダム作品は、その後作品が増えるたびにディテール表現や解釈が広がっていったという経緯があります。そうして増えた解釈や表現にできるだけ統一感を持たせるための協力体制という感じでしょうか?
岸山 そうですね。それこそ、第4話にはちょっとだけガンダムの内部フレームが出て来たりするのですが、それはうちで作ったマスターグレード(以下、MG)の『THE ORIGIN』版ガンダムのデータをフィードバックしています。何かの形で「リアル感」をお互いに利用しあえる関係性というのができているという感じですね。プラモデルの物作りも、カトキさんのデザインがCGのアニメモデルデータになって、そこからキット化されるという流れのおかげで、効率もかなり上がっています。意匠の部分を共有しているので、そこにどんな可動や機能をいれるかという部分に時間を割くことができているのです。その結果が、『THE ORIGIN』のハイグレード(以下、HG)シリーズの質が高いという評価に繋がっているのかもしれないですね。
—— 『THE ORIGIN』のメカシーンがCGで作られるということが決まった段階で、データの共有をする方向で進んでいたんですか?
岸山 そうですね。『MS IGLOO2 重力戦線』の頃からデータの共有は始まっていまして、そのあたりからの信頼関係が出来上がった結果が、今回のやり方に繋がっています。アニメ用のモデルデータとプラモデルの設計データでは、作り方が違います。でも、互いに乗り入れられるデータがあることは都合がいいのです。劇中に登場するモビルスーツのディテールと形状も、CGデータを共有することでほぼそのまま立体化できるというメリットもありますし。データ共有という部分でも何年もかけてトライアルを重ねてきているので、いきなりこのやり方ができたというわけではないのです。
—— 『THE ORIGIN』のプラモデルにおける「MSD(Mobile Suit Discovery)」では、ガンダム作品が次々と作られることで、宇宙世紀を舞台にしていながらも解釈が広まった要素を、整理してプロダクトとして提案しようともしていますね。
岸山 現在、『THE ORGIN』のプラモデルシリーズでは、「MSD」という形で、他の作品に出て来たデザインワークを、さも一緒にいたかのように統制をとる商品が展開しています。『THE ORIGIN』をきっかけに、ガンダム作品が広く一元的に見えるやり方を作ろうとしているということですね。例えば、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 』のキャラクターが出ることはなくても、『THE ORIGIN』側に振られたカメラの中では、地上部隊に配属されたモビルスーツが陸戦型ガンダムに似ていたりするほうが楽しいのではないかという感じです。
—— アニメの『機動戦士ガンダム』と同じ時間軸だけど、違う場所で展開していたのが『機動戦士ガンダム第08MS小隊』であるわけで、この2つの作品で後付け設定された部分を最初から整理して見せるようなやり方をしているということですね。
岸山 そうです。その他にも、『THE ORIGIN』では連邦軍とジオン軍のモビルスーツが同じ武器を持っている描写があって、「間違いなのじゃないか」と認識されるかもしれないです。でも、実は間違いではないというウンチクが『THE ORIGIN』の中には備わっていて、そういう小さいピースを理解していくと、昔から知っていたガンダム作品が、『THE ORIGIN』を通してもっと面白くみえる可能性があるのです。福田 「MSD」は想像の余地があるところを、模型を使って深めているというところがあります。もともと模型は、自分で好きに作って、好きに改造していける玩具ですから、想像の余地があれば遊びの幅も広がると思っているのです。
—— そのMSDも含めた『THE ORIGIN』のHGシリーズは、従来のHGUCシリーズに比べると可動範囲が広くなっていますが、そうした設計はどのような意図があるのでしょうか?
岸山 元々の『THE ORIGIN』漫画原作の中で安彦(良和)さんが描くモビルスーツの作画がとても艶めかしくて、メカであることを忘れるような滑らかな動きやポージングが魅力になっているわけです。プラモデルに関しても、そうした要素を実現したいという考えがありました。『THE ORIGIN』シャア専用ザクⅡを発売したときに、メインで展開しているハイグレードユニバーサルセンチュリー(以下、HGUC)シリーズでも「リバイブ」という形で、ガンダムとガンキャノンがリニューアルしていたのですが、こちらでは『THE ORIGIN』という冠の中で、ザクを勝手にリバイブしていたという感じですね。同じ生まれ変わらせるにしても、HGUCと『THE ORIGIN』のHGは価格が違います。HGUCは、1000円という価格帯に落としこんでいますが、『THE ORIGIN』のシャア専用ザクは1700円する。そこには、手に入れやすいように安くまとめるのではなく、大人目線の納得感のある、ピリっとするものを作りたいなと。『THE ORIGIN』は、劇中での動きや仕草が際立っているので、その映像とリンクするものを作りたい。だから、関節構造などの機構面に新たなものを盛り込んで、可動性が広げられるよう試作を作りました。そこで、首が二重関節で動いたり、胸の両脇や胸部から腹部が可動することで、ライフルを劇中の安彦さんが描くようなイメージ通りに構えられるようにしているのです。
—— 今までの1/144スケールのキットでは動かなかった部分が可動するようになることで、これまでのラインとはバリューが異なっていることが判ります。
岸山 MGを小さくしたわけじゃないのですが、部品をそこそこスポイルしながらアクションフィギュアのように、作った後に楽しくなれることを実現したいというコンセプトですね。1/144スケールにはリアルグレード(RG)シリーズがあるのですが、そちらは精密さを満喫してもらうキットですが、『THE ORIGIN』では作った後に、いじってポーズをつけて感動してもらうおうと思っています。福田 それから、『THE ORIGIN』のキットは、関節のフォーマット化を行っているというのも特徴かと思います。ザクⅠもザクⅡも同じ関節構造になっているので、「共通フレームの発展型」のようなニュアンスも表現できるようになっているのです。
岸山 最初の商品であるシャア専用ザクⅡですが、出来上がった商品では前腕部が、ちょっとエッジの立っている形状になっているのです。もっと柔和な感じが良かったという意見もあったので、MSDのドム試作実験機で金型を新しく作るので、よりイメージに近い形状をリトライしているのです。関節機構は同じなので、ドム試作実験機の前腕をシャア専用ザクⅡに付けると、より劇中に近いイメージで完成させることができる。そうした改造も簡単にできますし、そこから発展する形で、外装を交換することでのバリエーション的な展開もいろいろと可能なシリーズとなっています。今までのガンプラは、キット単体の都合で作ってしまうことが多くて、互換性ということがなかなかできなかった。それこそ、同じザクでデザインは同じなのに、設計者が違うからパーツの分割の仕方も違うし、共通化されていなかったから理想の形のザクを作るにはそれなりの技術が必要だったのです。それが、関節の共通化によって、開発する側でもユーザー側でも、いろいろと試すことができる可能性がありますね。
—— 現在、『THE ORIGIN』のプラモデルは、HGシリーズがメインで、MGではRX-78-02 ガンダムのみが出ているわけですが、今後の広がりはどのような流れになりそうですか?
岸山 何か大きな転機を迎える時には、MGで『THE ORIGIN』のアイテムをリリースするかもしれませんが、当分の間はMSDを含めたHG主体でやっていく予定です。HGで展開している部分を拡充して、世界観を広げていくことが今は大事だと思っています。
—— では、最後に『THE ORIGIN』のプラモデルを楽しんでいるファンにひと言ずつメッセージをお願いします。
福田 第4話の映像展開に合わせてガンキャノン最初期型が出ますので、局地型ガンダムとガンタンク初期型と一緒に揃えてもらえれば、完全ではないですがガンダム、ガンキャノン、ガンタンクが揃ってフェイクV作戦として並べることできます。連邦軍の過去のモビルスーツ開発の歴史をそうした形で楽しんでもらってもいいのではないかと思っています。岸山 ガンキャノン最初期型も、これまでのシリーズ同様『THE ORIGIN』らしい仕様になっていますので、今後の展開を想像しつつ楽しんでもらえると嬉しいです。
福田 ジオン軍側も、ランバ・ラルの乗るMS-04 グフも出ますし、スタートしてから3年目にして、ようやくジオン軍の初期開発史がつながって、きちんと並べることができますので合わせて楽しんでほしいです。
リレーインタビュー連載、次回はララァ・スン役の早見沙織さんにご登場いただきます。