第28回
CGプロデューサー CGディレクター
井上 喜一郎 × 岩切 泰助(後編)
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)のCGプロデューサー対談の後編となる今回は、劇中で使用されている3DCG表現の詳細について話を伺った。『THE ORIGIN』だからこそのCGの使い方から、モビルスーツのモデリングやアニメーションのこだわり、そしてCGプロデューサーという立場から見たCGを使用した見所などをいつもよりもボリュームアップして語ってもらった。
岩切 こちらで撮影処理をしているカットもあるのですが、それも葛山さんが目を通し、必要があれば手を入れることで、作品全体のトーンに統一感が出るようになっています。
岩切 『THE ORIGIN』では、CGと作画の合成に関しては、作画を先に完成させる場合と、CGを先に完成させる場合の2パターンがあるのです。完成カットを想定しながら、作画監督さんと相談して、どちらを先に完成させたらいいかを決めて作業しています。例えば、先にCGでカメラアングルを決めて、そこに作画を追加してもらうというケースや、作画を先にやってもらって、CGをそこに寄せて出力したほうがいい場合もあるので、1カットずつ細かい打ち合わせをしながら作業を進めているので、そういうところで時間がかかっていますね。
岩切 『THE ORIGIN』では、デザインを起こすにあたって簡易モデルを使ってサイズの検証を行ったりします。例えば、艦船のモビルスーツ搭載数が何機なのかを設定上で決めた場合、それが現実的なのかという部分を、CGを使って「何機積むならこれくらいの容積が必要」ということをデザイナーさんに示した上で、デザイン作業を行ってもらうこともあります。
井上 その他、モビルスーツならばプラモデルとしても立体化できるように、検証をした上でラフのデザイン画を上げてもらい、さらなる検証を重ねてようやくデザインが決定します。そこから、線画に合わせて3Dモデリングがスタートします。モデリングは、CGディレクションとして自分がチェックをして、問題がなければメカデザイナーさんにチェックをして頂きます。OKが出たらディテールの工程に入ります。細部の作り込みの前にチェックをしてもらう理由には、プロポーションバランスをとることが大切だという点とディテールを作成してからバランスを修正することが難しいからです。安彦(良和)さんの漫画原作を汲みとり、デザイナーさんがメカのフォルムを描いているので、バランスの段階で一定のクオリティをクリアしていないとディテールに入ることはできません。そのため、バランスチェックを行った後に、細部のディテールを作っていくという工程になっています。
岩切 マーキングの設定は意外と細かくて、劇中に登場する機体の数を考慮して、数字を変えて入れることもありますね。
岩切 シーンの演出や見せ方によっては、頭の大きさを変えるというようなこともありますね。
井上 胸の張り出しの長さを変えたり、ザクⅠの後頭部にあるトサカの位置をずらしたりと、普通では気付かない部分も作画に近いイメージで表現できるように工夫しております。
井上 背景に関しては、背景テクスチャの貼り込みだけで済むところと、建物などの背景自体をモデリングしなければならないところがあります。例えば、第2話のキャスバルとアルテイシアの別れのシーンは、足下の草や風で舞う葉、樹木も全て3Dモデルを作っています。足下の草に関しては、背景の上に草のハイライトだけを乗せたもの、全て3Dにしたものなどで、いくつかルックテストし、結果ハイブリットが採用されています。第3話の地球連邦軍司令塔に関しては、簡易モデリングにカメラ方向からのみ背景描きを投影させる「カメラマップ」という手法を使うことで、カメラが少しだけ回り込んでも立体感の出る表現を取り入れています。
岩切 ミリタリーものの迷彩を全カット手で描くわけにはいかないですからね。そこで、1度テストで何か作ってみようということになり、シャア専用オーリスのPV時に作ったシャアが歩いている作画に3Dの迷彩を貼り付けて試してみました。その結果、技術的になんとかなることが判ったので、あとは時間と労力が見合うかというところで、チャレンジすることになりましたね。
井上 テストを担当したスタッフが、CGで迷彩をやることが決まった時には、その苦労を想像して厳しい顔をしていましたね。ただ、その労力をかける意味があるほど、映像の効果としては高く、身体に合わせて迷彩が立体的に動くビジュアルが表現できています。
岩切 袖の丸みに迷彩の柄がちゃんとマッチしているので、重装行軍のシーンや訓練シーンはかなり見応えのあるものになっていると思います。
井上 迷彩をやるなら、キャラも全て3Dで作るという意見もあったのですが、結果的には一部の遠景キャラカットを除き、作画に貼り込むという方法を選んでいます。本編作業終盤では、撮影工程で貼り込んでいただけるよう調整でき、とても助かりました。撮影の技術もどんどん進化していて、迷彩を乗せたいパーツごとに色分けをしておくと、そこに迷彩の柄が追従できることがわかったので、あの物量をクリアしつつ、画面のクオリティも上げることができました。こうしたトライアルは、今後のミリタリーテイストの作品にも活かせると思います。
シャアが装甲車から飛び出すカットの制作工程は、最初に装甲車などのメカ配置が判る第一原画が上がってくるので、それに合わせて装甲車を3Dで出力します。CGでラフアニメーションを作りカメラワークも加えて1度チェックをして、演出OKが出たら作画に戻しキャラ作画に入ります。その間に背景モデルを3Dで作成し、背景の設計図である背景原図と背景テクスチャの貼り方を考えつつ、最終的に動画が上がってきた所で仮合成します。そこで位置やタイミングのズレを調整するために再度打ち合わせで演出や作画監督とコマ毎に何度もやりとりをして、さらにエフェクトについては撮影の方とも相談しつつ……と多くの人数が関わって試行錯誤しながら作り上げていく工程となりました。
岩切 迷彩以外だと、工場内でモビルスーツのヴァッフが組み立てられているシーンも、作画とCGをあわせたかたちで作られていて、CGと作画で細かいやりとりを経て完成している手のかかったシーンになっています。
岩切 NASAの月面で撮影した映像を取り寄せて参考にしたりしています。
井上 月面での土煙の動きに関しては、立ち上がりは速いけれど落ちるのはゆっくりというような、月面特有の重力の雰囲気(印象)を出すように工夫しています。
岩切 ようやく、本格的なモビルスーツの戦闘シーンが描かれるので、そこには期待してほしいですね。
岩切 僕自身が、「この作品にとっていいCGとは何か?」を考えた時に、「CGかどうかを意識させないこと」というところに思い至りました。画面上を派手にして、観たこともないCGを作るというのとはまた違うものだと思っています。その上で、『THE ORIGIN』という安彦ワールドにより浸っていただけるためのCGを作れればと思っています。今後もぜひ観てもらえればと思います。
リレーインタビュー次回はバンダイホビー部の岸山博文さんと福田瑞樹さんに登場いただき、『THE ORIGIN』の作品とプラモデルの関わりについてお聞きしたいと思います。
—— CG制作の面で、『THE ORIGIN』から始めた技術や見せ方などはありますか?
井上 CGの技術的な部分では、今まで培ったノウハウの応用に近いと思います。見せ方に関しては、例えばモビルスーツのスラスターの描写などはこだわった箇所になります。エフェクトの種類として、姿勢制御用のスラスターと機体推進用のメインスラスターは別個に作っていますし、モビルスーツの設定段階でも、機体のどこに姿勢制御用のスラスターがあるのかをきちんと指定して、それらをもとに姿勢制御の際には何コマくらいエフェクトが出るのかなどを決めてあります。エフェクトの見せ方に関しては、作画監督が噴射エフェクトの出始めや消える時のコマ、機体挙動とのズレに関してこだわっていまして、メカの重さが出るエフェクトを心掛けておりますし、細かい動きまで作画パートと違和感が出ないようにしている点は『THE ORIGIN』ならではと言えます。
—— 作画とCGでは別作業という印象があるのですが、やはりタイミング的な「馴染み」という部分で浮かないようにするために、作画の要である総作画監督自らがチェックしているわけですね。
井上 そうです。やはり、CG制作側からすると、CGが作画から「浮く」ということは気になりますから。1秒あたりのCGのコマ数と作画のコマ数に関しては、最初の頃は異なっていたのですが、最近は同じ画面内で違和感がないように、CGのコマを落として作画と馴染ませるような調整も行っています。それこそ、手前で大きいサイズのキャラが演技をしていて、その奥に自動車が走って来るシーンや、その自動車にもキャラが乗っていたりするシーンもあるので、そうしたカットは特に違和感がないように気を付けています。群衆シーンでも、CGのモブと作画のモブを意図的に混ぜたり、エフェクトでもCGの煙と手描きの煙を重ねるなど、演出さんと良くすり合わせながら作っています。1画面にCGだけにせず、作画要素を混ぜることで、CGだと判断しにくくし気にならないようにする狙いです。
—— CGで描いているモビルスーツとキャラクターが同時に同じ画面に入るシーンなどは、さらに気を付けなくてはならないのでしょうか?
井上 第4話の予告で、月面で逃げるミノフスキー博士の後ろからガンキャノンが追いかけてくるカットがありますが、そこでもコマを落とした調整などに時間をかけています。それから、作画的な面での修正指示が入ったのは、カメラアングルですね。作画のアングルとCGのアングルが合っていないと、違和感の原因になってしまうので、カット制作時はどうしてもガンキャノンとミノフスキー博士のパースが合わず、作画に合わせてガンキャノンの位置を下げております。メカと作画キャラとの配置は、2、3回修正をして理屈に則ったパースではなくて、絵として嘘でもいいから自然にみえるよう調整しています。さらに撮影処理でCGと作画のトーンを合わせていただき、質感的にも馴染む仕上がりになっております。
—— CGのみで構成されるシーンの撮影処理は、D.I.D.スタジオでやってしまうのでしょうか?
井上 第2話くらいまでは、D.I.D.でも撮影しておりました。ただ、第2話制作後に反省会を開きまして、撮影処理に関しては撮影監督の葛山(剛士)さんの方に任せて、作画もCGも含めた全体のトーンを統一した方がいいのではないかということになりました。岩切 こちらで撮影処理をしているカットもあるのですが、それも葛山さんが目を通し、必要があれば手を入れることで、作品全体のトーンに統一感が出るようになっています。
—— トーンを統一することが重要ということですね。
井上 はい。やはり「CGが浮いている」という意見は最も言われたくないことですし、そうした見映えに関してのクオリティは更に上げていきたいです。それぞれのセクションが協力して、ひとつの作品として映像に一体感が出なければならない。そういう部分も含めて、やはり『THE ORIGIN』は他の作品に比べても多くの手間と時間がかっています。岩切 『THE ORIGIN』では、CGと作画の合成に関しては、作画を先に完成させる場合と、CGを先に完成させる場合の2パターンがあるのです。完成カットを想定しながら、作画監督さんと相談して、どちらを先に完成させたらいいかを決めて作業しています。例えば、先にCGでカメラアングルを決めて、そこに作画を追加してもらうというケースや、作画を先にやってもらって、CGをそこに寄せて出力したほうがいい場合もあるので、1カットずつ細かい打ち合わせをしながら作業を進めているので、そういうところで時間がかかっていますね。
—— CGのモデリングに関しては、他の作品と比べて違う部分はありますか?
井上 CGのモデリングに至るまでは、『THE ORIGIN』ならではの手順がありますので、まずはそこから説明します。CG制作の前に、メカデザイナーさんが集まって「メカ打ち合わせ」を行います。そこでは、デザインの発注から、デザイン内の形状や解釈、バンダイさんとのプラモデル化の絡みを含めた打ち合わせが行われております。又、何をCGでモデリングするのか検討する話もありますので、CG担当の我々も参加しています。岩切 『THE ORIGIN』では、デザインを起こすにあたって簡易モデルを使ってサイズの検証を行ったりします。例えば、艦船のモビルスーツ搭載数が何機なのかを設定上で決めた場合、それが現実的なのかという部分を、CGを使って「何機積むならこれくらいの容積が必要」ということをデザイナーさんに示した上で、デザイン作業を行ってもらうこともあります。
井上 その他、モビルスーツならばプラモデルとしても立体化できるように、検証をした上でラフのデザイン画を上げてもらい、さらなる検証を重ねてようやくデザインが決定します。そこから、線画に合わせて3Dモデリングがスタートします。モデリングは、CGディレクションとして自分がチェックをして、問題がなければメカデザイナーさんにチェックをして頂きます。OKが出たらディテールの工程に入ります。細部の作り込みの前にチェックをしてもらう理由には、プロポーションバランスをとることが大切だという点とディテールを作成してからバランスを修正することが難しいからです。安彦(良和)さんの漫画原作を汲みとり、デザイナーさんがメカのフォルムを描いているので、バランスの段階で一定のクオリティをクリアしていないとディテールに入ることはできません。そのため、バランスチェックを行った後に、細部のディテールを作っていくという工程になっています。
—— 『THE ORIGIN』では、CGは作画に寄せた見せ方になっていますね。
井上 そうですね。作画との違和感がないように、手描きのように見せるための主線や質感を入れています。モデリングの際に、デザイン画で描かれている線を形状として作成するのか、マッピングによって線を擬似的に入れるのかということなど細かく決めています。色味に関しては、色彩設計の安部(なぎさ)さんにノーマル色状態と宇宙空間での色味を決めていただき、形状ができたCGモデルは質感作業に入ります。メカデザイナーさんにチェックしてもらうのは形状までで、質感に関しては演出側がチェックすることになります。劇中でどんな印象に見えるか、マーキングなども入れた状態で総監督、演出、作画監督がチェックするという流れになっています。マーキング指示はモデルによって異なりますが、安彦さんやデザイナーさんから「ここにマーキングを入れたい」という指示が入る場合や、設定側で機体を見分け易いように「ここにマーキングを入れる」という指示を出すこともあります。岩切 マーキングの設定は意外と細かくて、劇中に登場する機体の数を考慮して、数字を変えて入れることもありますね。
—— モデリングに関して、もうひとつ気になるのはモビルスーツの可動部の表現ですが、そこはどのような工程で作業されているのですか?
井上 まず、ラフモデリングの段階で「ここが動く、ここが動かない」という箇所を詰めておきます。その後、ディテールを作りながら、可動領域に沿って各部がきちんと動くか、プラモデルと同じ表現ができるかをチェックしていきます。イメージとしては、CGモデルはプラモデルの可動プラスαくらいを目指しています。昔のプラモデルは、可動領域が狭かったのですが、現在は二重関節を含め、可動領域がとても広がっています。その辺りもCGモデルで再現しながら、関節の奥のシリンダーなどのギミックもプラモデルを参考にしつつモデリングを進めております。
—— 3Dモデルでは、ポージング時にパーツがめり込んでしまうという問題がありますが、そこはどう処理されていますか?
井上 実は、アニメーションを付ける際に、最初の段階ではめり込みを気にしていません。動きが小さくならないよう、全体のフォルムで恰好良く見せることに注力しております。その後、3D素材を分けて出力して、めり込みをカバーするように被せるというような処理をしています。3Dモデルは、各部素材をバラバラに配置移動できるようになっているので、フォルムを重視する方向で1コマごとにモデルのパーツも調整を行っています。また、関節の可動部によっては隙間が出来てしまうこともあるのですが、そこは作画監督からも隙間ができないように繋げてほしいという要望を頂いているので、微調整をしております。
—— 見せ方を重視して、モデリングも変形させたりしているのですね。
井上 第4話から特にそうした作業をしているのですが、本当にバランスが難しいです。見え様を優先する形をとっているのですが、あまりやり過ぎると「デザインと形状が違う」という話にもなってしまうので、カットごとに注意深くチェックをして調整を重ねています。岩切 シーンの演出や見せ方によっては、頭の大きさを変えるというようなこともありますね。
井上 胸の張り出しの長さを変えたり、ザクⅠの後頭部にあるトサカの位置をずらしたりと、普通では気付かない部分も作画に近いイメージで表現できるように工夫しております。
—— 『THE ORIGIN』では、背景にも多くCGを取り入れていますね。
岩切 コロニーや第4話の月面は、CGでモデリングする箇所の展開図を、美術を担当しているスタジオ・イースターさんにお渡しして、テクスチャを描いてもらって統一した質感でCGに貼り付けて完成させています。井上 背景に関しては、背景テクスチャの貼り込みだけで済むところと、建物などの背景自体をモデリングしなければならないところがあります。例えば、第2話のキャスバルとアルテイシアの別れのシーンは、足下の草や風で舞う葉、樹木も全て3Dモデルを作っています。足下の草に関しては、背景の上に草のハイライトだけを乗せたもの、全て3Dにしたものなどで、いくつかルックテストし、結果ハイブリットが採用されています。第3話の地球連邦軍司令塔に関しては、簡易モデリングにカメラ方向からのみ背景描きを投影させる「カメラマップ」という手法を使うことで、カメラが少しだけ回り込んでも立体感の出る表現を取り入れています。
—— 第3話で印象的だった、士官学校の生徒たちの迷彩服はCGチームが担当されているのですよね。
井上 当時監督から迷彩は「CGでやるよ」と言われました。迷彩服が出てくるカットが全部で300カット位あり、作画の動画が上がるのを待ってからCG作業をする流れでしたので、作業時間もあまりとれないという悩みもありましたね。動画がアップして、撮影に入る前までの短時間でその物量をさばくために外部の会社など手分けをして作業することになりました。岩切 ミリタリーものの迷彩を全カット手で描くわけにはいかないですからね。そこで、1度テストで何か作ってみようということになり、シャア専用オーリスのPV時に作ったシャアが歩いている作画に3Dの迷彩を貼り付けて試してみました。その結果、技術的になんとかなることが判ったので、あとは時間と労力が見合うかというところで、チャレンジすることになりましたね。
井上 テストを担当したスタッフが、CGで迷彩をやることが決まった時には、その苦労を想像して厳しい顔をしていましたね。ただ、その労力をかける意味があるほど、映像の効果としては高く、身体に合わせて迷彩が立体的に動くビジュアルが表現できています。
岩切 袖の丸みに迷彩の柄がちゃんとマッチしているので、重装行軍のシーンや訓練シーンはかなり見応えのあるものになっていると思います。
井上 迷彩をやるなら、キャラも全て3Dで作るという意見もあったのですが、結果的には一部の遠景キャラカットを除き、作画に貼り込むという方法を選んでいます。本編作業終盤では、撮影工程で貼り込んでいただけるよう調整でき、とても助かりました。撮影の技術もどんどん進化していて、迷彩を乗せたいパーツごとに色分けをしておくと、そこに迷彩の柄が追従できることがわかったので、あの物量をクリアしつつ、画面のクオリティも上げることができました。こうしたトライアルは、今後のミリタリーテイストの作品にも活かせると思います。
—— やはり、作画に迷彩を貼り込むのは大変な作業なのですね。
井上 これも『THE ORIGIN』ならではだと思います。作画で描かれる安彦さんのタッチやキャラクターのフォルムは絶対条件ですし、CGであのキャラを表現するにはまだ至っていないですから。そうしたことも踏まえて、『THE ORIGIN』だからこその、迷彩表現の答えになっていると思います。また第3話では、昼間の演習シーンも、CGの戦闘車両と迷彩キャラを絡めた戦闘描写が見所になっていると思います。後半の暁の蜂起のシーンでは、基地内で歩兵と八輪装甲車が走っているシーンがあり、背景も3Dで描かれていてライブ感あるカメラの回り込みも含めて迫力のある仕上がりになったのではないかと思います。八輪装甲車から士官学校の生徒が降りてくるシーンや、ランドムーバーを付けたシャアが装甲車から飛び出すシーン、リノが61式戦車に取り付くシーンなども、先ほどお話したCGと作画の組み合わせたシーンになっているので、他のシーンとは工程も異なり見どころでもあります。シャアが装甲車から飛び出すカットの制作工程は、最初に装甲車などのメカ配置が判る第一原画が上がってくるので、それに合わせて装甲車を3Dで出力します。CGでラフアニメーションを作りカメラワークも加えて1度チェックをして、演出OKが出たら作画に戻しキャラ作画に入ります。その間に背景モデルを3Dで作成し、背景の設計図である背景原図と背景テクスチャの貼り方を考えつつ、最終的に動画が上がってきた所で仮合成します。そこで位置やタイミングのズレを調整するために再度打ち合わせで演出や作画監督とコマ毎に何度もやりとりをして、さらにエフェクトについては撮影の方とも相談しつつ……と多くの人数が関わって試行錯誤しながら作り上げていく工程となりました。
岩切 迷彩以外だと、工場内でモビルスーツのヴァッフが組み立てられているシーンも、作画とCGをあわせたかたちで作られていて、CGと作画で細かいやりとりを経て完成している手のかかったシーンになっています。
—— 安彦さんからCG作業に関して何か意見や注文などはあったりするのですか?
井上 最初に仰っていたのは、「リピートはしないで欲しい」ということでした。CGは、同じ絵の繰り返しは使わず、リピートにならないという部分が利点にもなっています。安彦さんには、CGの技術的なことよりも絵の見せ方に関していくつか言われています。例えば大きな構造物などは、劇中で時間をかけて見せ巨大感を強く持たせたいということです。例えば、艦船をなめて撮る場合は、理屈で言うとカメラ手前は速く動くのですが、「長く見せるようにゆっくり動かしてほしい」と仰っていました。そうした意見は、安彦さんのアニメーターとしての「勘」でもあり「こだわり」でもありますので大切にしたいと考えています。やはり『THE ORIGIN』という作品は、安彦さんをリスペクトした動きやフォルムを重視して画作りをするためです。又、最近ではCGへの信頼度が上がったためか、「CGのパースだと実際はどう見えるか、見せて欲しい」という要望もあります。例えば、コロニーをSF考証的なリアルさを取り入れて描いた場合は、どう見えるのかということも確認してみたいと仰います。これは今後のルウム編になるのですが、コロニーの外壁で作業するモビルワーカーの見ためや、コロニーの中からその作業を見上げた時にどう見えるのか、見てみたいと言われたのでCG検証をしました。実際に、実寸のコロニー内でその角度からカメラ撮影をしたところ、安彦さんが想像しながら描いた漫画原作のコマとほとんど一緒だったのです。「こういうのが確認できるのは面白いね」と安彦さんは喜んでいたのですが、こちらからするとリアルなサイズ感で作ったものを既に「勘」で描けている感覚にとても驚きました。そうしたCGでの検証も重ねていますので、全体的にも良い形に進んでいるのではないかと思います。
—— そろそろ完成が近づいている第4話のCG的な見所はどこになりますか?
井上 今回の見所は、やはり月面での戦闘シーンになります。月面は、背景を含めてほとんど3Dで作られています。モビルスーツの戦闘に合わせて背景の動くカットがたくさんありますので、戦いの舞台自体が3Dでモデリングされています。只、そのままのモデルを使うわけではなく、ラフ原画に合わせてカットごとに隆起を調整する作業も行い、クオリティアップを図っています。それから、土煙ですね。月面では土煙がどのように上がるのかなどもテストを重ねて作っています。岩切 NASAの月面で撮影した映像を取り寄せて参考にしたりしています。
井上 月面での土煙の動きに関しては、立ち上がりは速いけれど落ちるのはゆっくりというような、月面特有の重力の雰囲気(印象)を出すように工夫しています。
岩切 ようやく、本格的なモビルスーツの戦闘シーンが描かれるので、そこには期待してほしいですね。
—— では、最後に第4話を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
井上 現在、絶賛制作中です。『THE ORIGIN』は、CGを意識して観る作品ではないと思いますので、漫画原作の世界を広げるスパイスとしてCGが活躍できればと思います。本編を見終えた後にメイキングなどで「これはCGだったんだ!」と思って貰えたら最高です。また、プラモデルなどの商品展開がありますので、本編で登場したメカをプラモデルという形で手にした際に、それが満足できるものとなるようにCGも頑張らなければならないと思っています。第4話、そしてその後もぜひ、ご期待していただければと思います。岩切 僕自身が、「この作品にとっていいCGとは何か?」を考えた時に、「CGかどうかを意識させないこと」というところに思い至りました。画面上を派手にして、観たこともないCGを作るというのとはまた違うものだと思っています。その上で、『THE ORIGIN』という安彦ワールドにより浸っていただけるためのCGを作れればと思っています。今後もぜひ観てもらえればと思います。
リレーインタビュー次回はバンダイホビー部の岸山博文さんと福田瑞樹さんに登場いただき、『THE ORIGIN』の作品とプラモデルの関わりについてお聞きしたいと思います。