第19回
挿入歌

澤田 かおり


 劇中の見せ場でもある、クラブ・エデンでのクラウレ・ハモンの歌唱シーン。自分の思いを込めたような歌を、店の端にいるランバ・ラルに向けて歌い上げるシチュエーションで最も重要な役割を果たしたのは、挿入歌「By Your Side」の作詞と歌を担当した澤田かおりさん。アメリカで音楽の勉強を経てシンガーソングライターとしてデビューを果たした澤田さんは、初となるアニメ挿入歌の制作にはどのような思いで挑んだのか? その思いを語ってもらった。
—— 普段はどのような音楽活動をされているのか教えてください。
澤田 シンガーソングライターとして、自分で曲を描いてピアノを弾きながら、ライブハウスを中心に活動しています。それ以外には、他のアーティストの方のコーラス参加、楽曲提供、テレビCM用の楽曲を担当させていただくなど、いろいろな形で音楽に関わらせていただいています。ジャンルとしてはポップスを中心にやっていきたいと思っています。
—— 今回はどのような経緯で参加されることになったのでしょうか?
澤田 どのように決定したのか詳しい経緯は判らないのですが、昨年、アーティストのMISIAさんに楽曲提供をさせていただいて、その曲の編曲を服部(隆之)さんが担当されているんです。その後もステージで共演するという縁がありまして。そうしたご縁から、服部さん経由で推薦していただけたのではないかと思います。
—— 『機動戦士ガンダム』という作品に関してはご存知でしたか?
澤田 作品の名前は知っていた程度で、お仕事をいただくまではちゃんと観たことがありませんでした。お話をいただいた後にいろいろと調べたのですが、周りの男性スタッフに「ガンダムの仕事が来ました」と言うと、目を輝かせてましたね。そこで、いろいろと教えて貰って勉強したという感じです。
 漫画原作も送っていただいて読ませていただきました。
 アニメの仕事に関しては今回が初めてですが、アニメーション自体はすごく好きですし、アニメーション映画を観に行ったりもするので、このお仕事に関してはかなり気合いが入りました。もちろん『ガンダム』という作品は思い入れのあるスタッフやお客さんも多いことも理解していますので、そういった方々に失礼にならないように取り組もうと思いました。
—— 今回は、歌だけでなく英語の作詞も手がけられているそうですが、どのような流れで作業をすすめられたのですか?
澤田 依頼を受けた際に、何を書けばいいのか全く判らなかったので、ざっくばらんにいろいろと教えていただける場を設けてもらいました。そこには、総監督の安彦良和さんもいらっしゃっていました。打ち合わせの場では、「詩の中にどんなキーワードを入れたらいいのか?」、「ハモンさんはどういう人間でどんな性格なのか?」というような質問をさせていただいて、作詞に関するアドバイスをいただきました。詩に関して、どんな内容で進めていけばいいのかと伺うと、ガチガチに固めるのではなく、ある程度任せていただけたのもありがたかったですね。
 今思えば、あの打ち合わせは、私にとっては最重要でした。打ち合わせがなかったらどうしていいのか判らなかったです。第2話のテーマカラーが青であるということも教えていただいたので、詩の中に「青」を入れてみようとか、たくさんのヒントをいただきました。
—— 普段とは楽曲作りの仕方は全然違いますか?
澤田 違いますね。自分の曲を作る時は、やはり自分次第のところがあるのですが、今回はテーマがあり、曲を歌うキャラクターと彼女の思いの先にある相手の姿もしっかりしていたので、作業としてはやりやすかったです。逆に難しいと思ったところもあります。普通の歌だと、固定の誰かがいるというよりも、想像上の誰かに対して思いを語ったりするので、イメージはわりと曖昧なんです。今回のように特定のキャラクターがいると、解釈を間違ってはいけないので、そうした部分での緊張感はありましたね。
 ハモンとランバ・ラルは、アニメーションのキャラクターではあるのですが、人なら誰でも持っているような愛情や、一人では生きて行けないから心の支えにしている人がいるという関係性も私としては想像しやすかったですし、感情移入しながらできました。
 詩の内容に関しても、ハモンからの目線を重要視していて、恋人を戦いに送り出しても自分は最後まで味方だという思いを入れています。また、自分の中で、芯の強い女性という部分からイメージを膨らませて、現代に生きる強い女性たちが、自分が愛する男性を奮い立たせながらも、その男性を守りたいと思っているのではないかという気持ちも浮かんだので、そういう方々に向けた歌詞にしたいなと思いました。
—— レコーディングの際には、歌だけでなく、歌う姿も収録されたと聞きましたが?
澤田 そうです。当初は「ちょっと参考程度に何か撮るかも」という程度だったのですが、安彦さんもいらっしゃってわりと本格的な歌と演奏の映像を撮影していました。コンテの参考にするということで、安彦さんからもアドバイスをいただいて。私自身が緊張していたのですが、まずはこちらから「こんな風にしたい」と歌手っぽく手を広げたりするような感じで歌ってみました。それに対して、安彦さんから「もっと男性に絡みつくような感じで、マイクを持って欲しい」というようなビジュアル的なイメージを伝えられるという感じでしたね。ちなみに、歌入れに関しては、「私はハモン」という気持ちでやらせていただきました。
 収録自体はいろいろと大変だったのですが、ミュージカル映画でもない限り、映画やアニメで歌がフィーチャーされることってそんなにないんですよね。だから、挿入歌としてだけでなく、映像の部分でも重要なシーンに歌手として参加させていただけたのは光栄に思います。
—— 挿入歌は、劇中で使用された英語版の他に、日本語版も歌われているそうですね。
澤田 英語で作詞したしたものを、日本語で歌うために日本語の詩も新たに書かせてもらいました。レコーディングのために改めて元の英語版を聞いたのですが、難しい歌だなと改めて思いましたね。ただ、日本語にすることによって、英語詩とは違ってもっと気持ちがこもったという印象はあります。お喋りしているように、語りかけるように歌うことができたので、清々しいレコーディングでした。
 英語の歌に日本語をのせようとすると、日本語の方が圧倒的に言いたい言葉の数が少なくなってしまうんです。だから作詞する際にすごく言葉を選ぶことになるのですごく難しい。だからこそ、同時に気持ちがこもるとも改めて思いました。そういう意味では、聞き比べてもらえると面白いかもしれないですね。
 服部さんが書かれた曲なので、すごく綺麗なのですが、実際に歌うとすごく難しいんです。楽曲は世界観も含めて、自分の曲は自分の歌いやすいように作ってしまう癖みたいなものがあるんです。でも、この曲は服部さんが書いてくださったもので、大きく朗々としたメロディになっていて、それを声で表現するのは凄く集中力と表現力が必要で、チャレンジングな曲だったなと思っています。
—— 同じ曲を英語と日本語の両方で作詞されることはあるのですか?
澤田 同じ曲を両方の言葉でというのは初めてですね。私自身、大学時代にアメリカで勉強していて、作曲についても習ったのですが、私個人の意見としては英語には英語に、日本語には日本語にふさわしいメロディがあるので、どちらもはやらないほうがいいと思う曲があるんです。でも、今回のこの曲のメロディは、そこがすごく自然にはまったという感じがしましたね。それは初めての経験であり、苦労した部分でもあるのですが、こういうこともあるという発見にはつながりました。
—— 今後は、この曲をライブで歌われる予定はありますか?
澤田 ぜひ歌ってみたいですね。音楽活動としてはポップスが中心なので、こういうジャジーな曲が1つ入ることによって、ライブとしてはすごく楽しんでいただけると思うし、私のオリジナルにはないものがたくさん入っているので、今まで歌ったことがない場所で歌ってみたいですね。
—— では、最後にガンダムファンに向けてメッセージをお願いします。
澤田 作品としては、私の歌も含めて、ハモンの格好いい女性の生き様に注目してもらいたいです。ガンダムファンのみなさん一人ひとりの作品への思いや、小さい頃から一緒に育ってきた思い出などもあると思うので、それを感じながら楽しんでもらえればと思います。私自身も今回のお仕事を通してガンダムファンになったので、これからはもっと詳しくなって皆さんと語り合えるようになれればと思っています。


11月4日に『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅱ 哀しみのアルテイシア』挿入歌「By Your Siide」も収録されたメジャーデビューアルバム「Songwriter」が発売された澤田さんの発売記念ライブが、11月24日(火)に大阪・心斎橋Music Club JANUS、12月3日(木)には東京・ヤマハ銀座スタジオでも開催されます。詳細やインストアライブなどの情報は澤田かおり Official Websiteでご確認ください。

◆ 澤田かおり Official Website
PREVNEXT