第27回
CGプロデューサー CGディレクター

井上 喜一郎 × 岩切 泰助(前編)


 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)の映像の中で、メカ描写や特殊なシーンを作るにあたって、3DCGやデジタル画像処理による表現が大きな役割を担っている。今やアニメーション制作において欠かせない存在となった3DCGやデジタル画像処理は、『THE ORIGIN』ではどのような形で取り入れられているのだろうか? 3DCGの制作を行うサンライズD.I.D.スタジオに所属し、CGプロデューサーとして作品携わる井上喜一郎氏と岩切泰助氏に、『THE ORIGIN』のCGに関して、2回にわたって話を伺った。
—— 『THE ORIGIN』のCG制作はサンライズD.I.D.スタジオが担当しているわけですが、そもそもD.I.D.スタジオはどんな部署なのでしょうか?
井上 今から20年ほど前に、デジタル映像推進室という名前で、まだアニメにCGを使っていないころに立ち上がった部署です。その頃は、撮影処理をPCを使ってできないかという取り組みから始まって、その後CGを取り入れた映像制作に関わっていったという感じです。
岩切 その頃のD.I.D.は「デジタル・イメージ・デベロップメント」の略称で、当時はPCを使った画像加工を1枚ずつやっていたそうです。だから、CGスタジオという呼び方ではないんです。
井上 サンライズ社内に、スタジオは14から15くらいあるのですが、現在CGをメインでやっているのはD.I.D.スタジオだけですね。主にどんな仕事をしているのかと言えば、3DCGのデザインや制作、2DCGの撮影や貼り込み、編集作業などをやっています。その他には、例えばVR(バーチャルリアリティ)のような新しいCGや映像制作にチャレンジしていくという部署でもあります。
—— 井上さんと岩切さんはCGプロデューサーという立場であり、井上さんはCGディレクターも兼任していますが、具体的にはどのようなお仕事をされているのですか?
井上 CGプロデューサーは、作品の中でどこにCGを使った方がいいのかという部分を、予算やスケジュール調整を含めて考えるのが仕事です。言葉の通りプロデュースしていくことで、「この作品の中では、これが面白いのではないか?」、「こういう描き方が効果的なのではないか?」ということを、作品プロデューサーの谷口(理)さんと相談して進めています。CGを使う箇所などは、最初から大枠では決まっているのですが、より細かい部分での「できるorできない」のジャッジは、予算なども絡んでくるので、社内外スタジオを含めたCGスタッフ編成も重要な業務です。
 CGのディレクションに関しては、演出さんや作画監督さんと相談しながら、細かい画作りに入った際、「カットやシーンをどう構築するか?」、「CGの技術的な部分をCGスタッフとどうデータで作って行くか?」。「モデリングを考えた際に、どのソフトのどんな機能を使うのか?」など、スタッフとキャッチボールをしながら映像化する際の具体的なディレクションをしていく仕事です。
—— CGディレクターは、いわゆる作画現場における作画監督のような立場だったりするのでしょうか?
井上 他の作品だと、CGディレクターはCG作業における作画監督のような仕事をする場合もあります。『THE ORIGIN』では総作画監督の西村博之さんやメカカニカル総作画監督の鈴木卓也さんがいらっしゃるので、画作りの面ではお任せして、CG側としては作画監督の狙いをCGでいかに再現し、かつCGならではのプラスαをどう加えていくかというところで、ディレクションしています。
岩切 CGディレクターの立場は、作品によりけりですね。作品によっては、メカニカル作画監督がいなくて、CGディレクターが画作りをする作品もあります。その作品に合った見せ方をするのが重要ですから。『THE ORIGIN』は安彦(良和)さんの漫画原作があって、安彦さんが描かれた絵コンテをレイアウトとして使っているので、そうした素材が活きる方向で作業しています。
井上 ちなみに、他のサンライズ作品の『バトルスピリッツ』シリーズや『アイカツスターズ!』シリーズでは、絵コンテから直接CGを起こす作り方をしています。そういう意味では他の作品に比べて手はかかっているのですが、『THE ORIGIN』は手をかけるべき作品だと思っているので、納得してやっている感じです。
—— CG制作はどのような流れで行われているのでしょうか?
井上 まず、シナリオ打ち合わせに参加して、その段階で安彦さんから「ここはCGでやりたい」というような希望を聞いたりします。その後、絵コンテが上がると、絵コンテの中で安彦さんから「ここはCGで表現できない?」という指示をいただくので、それをもとにプロデューサーの谷口さんと相談します。
岩切 シナリオに入る前から、すでに登場が決まっていて、さらに重要度が高く、CGでモデリングしなくちゃならないものなどは判っているので、そうしたものに関しては、先行してデザインやモデリングの作業を始めたりしています。
井上 絵コンテが上がってからだと、モデリングが間に合わないものが多いためです。例えば、登場するメインのモビルスーツは、メカデザイナーさんやプラモデル化するバンダイさんと相談しながら、「漫画原作をもとに、これはデザインとモデルを先行しよう」という話をして、メカデザイナーさんに発注がされています。商品化ということも重要ですので、「プラモデルになるから、先にCGは完成していた方がいい」ということが多いのは、『THE ORIGIN』ならではですね。
—— CGで作らなければならない背景や演出的にCGを使いたいという部分は、コンテが完成してからになるのでしょうか?
井上 背景は、やはり絵コンテの完成後になります。「このカメラワークはどう見ても回り込んでいるから、建物や街のモデリングをしなくちゃならない」という判断をします。
岩切 そうしたカメラワークは手描きではむずかしいですからね。
井上 建物や背景のモデリングはだんだん回を追うごとに増えてきていますね。第4話はかなりカメラが回り込む演出が多いです。
—— 安彦さんはご自身があまりCGに詳しくないと仰っていますが、CGに対する要望も多くなっている感じでしょうか?
岩切 安彦さんが作品を重ねるにつれてCGへの理解が深まったのに加えて、信頼してくださるようになったのかなと思います。最初は「ちょっと大丈夫なの?」って気持ちがあったと思うんです。でも、やっていくうちに「これなら大丈夫」と判断されたのだろうと。そこはうれしいと同時に責任を感じますね。
—— 『THE ORIGIN』の漫画原作は、仕事をする前から読まれていましたか?
井上 スタジオに『ガンダムエース』が置いてあったので、連載時から読んでいました。安彦さんが漫画としてガンダムを描いていることに驚きましたね。
岩切 僕も同じです。もちろん当時は自分がアニメ化に関わるとは思ってもいなかったので。無責任に「安彦さんは、毎月凄いボリュームを描いているな」って驚きつつ楽しんでいました。
井上 その頃は現場で『MS IGLOO』のCGカットの制作作業をしていたので、キャラクターよりもメカの描写に感動していました。モビルスーツはポーズ付けが大事なので、フォルムの柔らかさやポージングに感動しつつ、「これをCGでやるのは難しいだろうな」って思って読んでいたのを覚えています。それを今やらないといけない状況になっていまして(笑)。ここまでかなり鍛えられたと思いますので、そこは第4話に期待してもらえればと思います。
 当時、安彦さんの描くモビルスーツはキャラクター性というか個性があるような感じがして、そこに注目していましたね。その後、一緒にお仕事し始めた直後に「モビルスーツはキャラクターなんだよ」と仰っていたので、まさにその通りだと実感しています。今でも例えばガンキャノンのラフ原画を見ると、こめかみに怒りマークが描いてあって。怒っていることをイメージしてほしいということで、そういう描き方をされているんだろうなと思いますね。その脇に「これは描いちゃダメだよ」って書かれています(笑)。
 そういう意味では、今はすごく貴重な経験をしているんだなと、毎回指示を見ながら思っています。
—— 『THE ORIGIN』のメカをCGで表現すると聞いた時はどう思われましたか?
井上 今西(隆志)さんから、『THE ORIGIN』をアニメ化すると聞かされた時に、「メカは全部CGだ」と言われたんです。今オリジンを作るならCGでやった方がいいと仰っていて、商品化の絡みを考えると絶対に外せない要素だということでした。それを聞いた時は、「ハードルはとても高いな」と思いました。当初の僕のイメージでは、安彦さんが連載時のカラーページで書かれていたような、水彩画を再現するようなシェーディングにするのかと思っていたのですが、普通の作画とマッチするようなセルシェーダーでやりたいということでした。いずれにしてもかなり難しそうだったので、重責を感じましたし、大きな課題でもあったので、D.I.D.としては集大成でやらなければと思いました。
岩切 よくインタビューでは「なぜCGにしたんですか?」と聞かれるんですが、我々としてはCGでやることが大前提として伝えられたので、どう表現するかすごく頭を悩ませた立場なんです。
—— そういう意味では、『THE ORIGIN』のモビルスーツをCGで描くということは、やはりかなり難しい課題だったということでしょうか?
井上 それらしくはできると思いました。ただ、漫画原作の領域に辿り着けるかというと、頂上が見えない山を登っているのと同じで、今西さんには「相当厳しいですね」と言いました。その一方で『MS IGLOO』でフル3Dのガンダム作品を作ったという経験値もありましたし、『宇宙戦艦ヤマト2199』も制作した後だったので、この2つを組み合わせればなんとかなるのではないかという希望もありました。
—— CG制作には、どんな手順でテストなどをされたんですか?
井上 最初は土煙などのエフェクトや爆発のテストから入り、セルシェーディング用のモデリングを1体作って、どんなテイストでいくかというパターンを作ったりしました。それから、背景さんにテクスチャを描いてもらい、それを3D背景へ貼り付けて3Dのカメラでどう映るかというテストも行いました。それが、パイロット版とも言える、ジオニックトヨタのシャア専用オーリスの映像です。
岩切 あのシャア専用オーリスのPV映像は、西村さんや鈴木さんといった作画スタッフのほうも『THE ORIGIN』と同じ方が関わっていたので、作画とのやり取りに関してもいいテストピースになっています。
井上 時間的にも余裕があって、1カ月くらいかけて制作していました。オーリスのPVがあって、その後に宇宙空間での爆発などのエフェクトをテストしていきました。
岩切 この作品は、モビルスーツのモデリングも大事なんですが、エフェクトによって見た目の印象は、大きく左右されるので。最終的には画作りのエフェクトテストもかなり数を重ねているんです。
—— モビルスーツの質感表現に関しては、どのような形で決まりましたか?
井上 今西さんと話をしていて、「ハイライトはあまり入れないですよね?」って聞いたら「そうだね」っていうやり取りだけで終わる程度でした。ミリタリーの戦車などは、テカテカしていたら撃たれてしまいますし、作風としてもそういうイメージは最初から持たれていたので、ツヤ消しの質感はすんなり決まりました。むしろ、汚しの入れ方に苦労しました。あまり汚し表現を入れてしまうと3Dっぽさが強くなってしまうので、監督の意向から『THE ORIGIN』は、ツヤ無し、特効も少なめというシンプルな質感で行くことになりました。その後、第2話、第3話では特殊効果を少しずつ追加することで、さらに質感を高める方向へ進化している感じです。
(後編に続く)

 後編では、『THE ORIGIN』本編でのより具体的なCGの使い方やとこだわりなどを伺います。
PREVNEXT