第3回
キャラクターデザイン

ことぶきつかさ


 今回の関係者リレーインタビューは、キャラクターデザインを担当したことぶきつかさ氏。アニメやゲームのキャラクターデザインから、『機動戦士Zガンダム デイアフタートゥモロー –カイ・シデンのレポートより-』(以下『カイ・レポ』)などのガンダム漫画の執筆など幅広く活動してきたことぶき氏に、安彦良和氏自らの誘いで参加することになった『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下『THE ORIGIN』)への思いを語ってもらった。
——『THE ORIGIN』へは、どのような経緯で参加することになったのですか?
ことぶき 角川書店発行の『月刊ガンダムエース』で『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー-カイ・シデンのメモリーより-』(以下『カイ・メモ』)を連載している頃に、安彦さんから「『THE ORIGIN』のアニメでキャラクターデザインを引き受けて欲しい」と連絡をいただいたのがきっかけですね。
 既に『THE ORIGIN』のアニメ化は発表されていましたし、僕自身「きっと『ガンダムUC』のスタッフが引き続きやるんじゃないのかな」なんて普通のガンダムオタクと大差ない予想をしていた矢先に連絡をいただいたという感じです。
 その後、サンライズの富岡(秀行)さんから「やっていただけないとアニメ化の話がここで潰えてしまう」と脅されまして(笑)、個人的にも映像化は楽しみにしていたので「出来る範囲でご協力させていただきます!」とお応えました。
 当時自分は『カイ・メモ』を連載中だったのですが、アニメとの並行作業は困難と考え、3巻完結予定のところを2巻に短縮し、連載を終えてからアニメの仕事にシフトしました。
——『カイ・レポ』をはじめ、今までガンダム系の漫画をいくつか描かれたりしていますが、ことぶきさんはガンダムへの思い入れは強いんですよね?
ことぶき 小学4年生の頃に『機動戦士ガンダム』に出会ったファーストガンダム直撃世代ですからね。『機動戦士Zガンダム』が放送された時は中学2年生で、続編なんて物が制作されるなんて全く予想もしていませんでしたから「あ〜もう少し早く生まれていれば『ガンダム』の仕事が出来たのに!」と思っていたくらいです。
 ところがその直後にコミケなる魔物と出会ってしまい、『機動戦士ガンダムZZ』『逆襲のシャア』の頃は同人誌活動をしていました。その後もガンダム作品は次々と世に出ていって「こんなにガンダムシリーズが続くなら、自分もガンダムという作品に携われるチャンスがあったんじゃないか!?」と思いながらも、その時はもうアニメーターではなく漫画家っぽくなっていたんですよね。なので「ならば、漫画の方でガンダム作品を応援していこう」と。
 『THE ORIGIN』が『ガンダムエース』という新雑誌で連載を始めると聞いた時には「是非参加したい!」と思ったんですが、丁度同時期に自分は『月刊少年エース』の方で漫画を連載している最中でして。編集からは「『THE ORIGIN』の連載は3年で終わっちゃうよ〜」と聞かされたのでこのままだと自分は参加出来そうにないなあと諦めていたところ、有難い事に安彦先生の連載は延び続け、お陰で創刊から6年が経過したタイミングで『カイ・レポ』『カイ・メモ』をやらせていただき、そしてそれが安彦さんの目に止まったわけですから、『ガンダムエース』には本当に感謝しています。
——つまり、当時思っていたことが現実になったわけですね。キャラクターデザインとして声をかけてもらえた時はどう思われましたか?
ことぶき 当然「何で僕なの?」という思いはありましたね(笑)。誰かと間違えてるんじゃないかとも思いましたが、自分の所に直接声をかける随分前からサンライズさんには相談していたと聞いて、勘違いではないんだな・・・と。有能なアニメ関係者が大勢いる中で、僕が選ばれたこと今でも不思議です。『ガンダム』を観て育ち、アニメに関われたらいいなと思っていたので、実際に今「自分があのキャラクターをアニメ用にデザインしている!」という現実は、感慨深いですよね。
——前回インタビューさせていただいた隅沢さんも同じように仰っていました。
ことぶき 『ガンダム』が好きでこの世界に入った人たちにとって、何らかの形で『ガンダム』というタイトルには携わりたいという気持ちがあると思いますし、その中でも今回の『THE ORIGIN』の仕事は究極といえる作品の一つだと思うので、既に達成感みたいなものはあります。勿論これからも作業が沢山あるので全然終わってはいないんですが(笑)。
——今回、安彦さんと『連名』でキャラクターデザインとなっているわけですが、どのように仕事を分けていらっしゃるんですか?
ことぶき 当初は安彦さんがアニメに関わらないという話だったので、その時点では主役クラスも含め全キャラクターを担当していました。その後体制が変わり、過去編に関して安彦さんが総監督として参加することになって、絵コンテやレイアウトチェックも含めてご自身でやると決まった段階で、そこまでするのであれば登場するキャラに関しても他者がアレンジした絵ではなく自分の絵で行きたいという事になりまして。・・・とは言え、安彦さんは連載中の漫画を続けつつアニメの仕事もされるということで、負担を考えて安彦さんの特に思い入れの深いキャラクター達を安彦さんご自身が、そしてそれ以外を僕が担当するという形になりました。
 ただ、明確な線引きはないですね。会議の場で僕の描いたラフを見ながら「これは僕が描く、こっちはことぶき君よろしく」という感じに簡単に分けましたが、途中「やっぱりこれはこっちに引き取る、やっぱりこれはやって」というようなやり取りで今も調整しつつ作業している感じですね。正直メインキャラをやらなくて済んだことに関してはホッとしています(笑)。
——実際に作業にあたって、安彦さんからオーダーはあったんですか?
ことぶき MSやコスチューム関係も変わるので、ある程度時代の流れに合わせた変更はOKという事ではありましたが、それでも自分なりにちゃんと安彦良和したデザインになるよう努力していたつもりです。が、途中からメインキャラクターを安彦さん本人が描くことになったので、それまで以上に安彦さんのキャラと違和感がないものにデザインし直さなくてはいけませんでした。理想は総作画監督の西村(博之)さんのタッチも活かせるような安彦像……つまり、お二人の絵の中間を狙ってデザインを描いている感じです。
——現在は、スタジオに入られて作業をしているという感じですか?
ことぶき メカやCG関係はDIDスタジオの方でかなり先行していましたが、『THE ORIGIN』スタジオは創設当初、僕しかいなくて、そこでひたすら安彦さんの絵の練習をしていました。その後総作監の西村さんが合流して、その後も二人で安彦絵の練習をする日々が続いて。今は打って変わって西村さんの総作監作業を中心にどんどんと作画作業が進んでいるので、アニメの現場経験の少ない僕だけが置いて行かれている感じです。
 二人で机を並べて絵の練習をしている時も、百戦錬磨の西村さんにはこの未来が明確に見えていたんだろうなと。僕には全く判らない世界でした。そうした状況で、今は皆さんの足を引っ張らぬよう頑張っているという感じです。
——『THE ORIGIN』のアニメ化には、かなり初期から関わっていたわけですが、ようやくPVも完成して動いている絵もみることができるようになったわけですが、その感想はいかがですか?
ことぶき 最初は自分のクレジットが何と表記されるのかようやく分かったという安堵感でしたね(笑)。動いている絵に関しては絶大な信頼をおいていますのでもうニヤニヤするしかなかったです。CG関係を手掛けているDIDのお仕事がまったく判っていなかったので、ザクを見て「『THE ORIGIN』のMSはこう動くのか!」と。そして同時に「自分は今本当にガンダムの仕事をしているんだなー」と。
——前回のインタビューに出ていただいた隅沢さんから、「『カイ・レポ』の続きはいつ始まるの?」との意地悪な質問を預かってきました(笑)。
ことぶき 隅沢さんも『ガンダムエース』で『新機動戦記ガンダムW』の小説を連載されていて、『THE ORIGIN』の作業期間は確か時折休載されていましたよねぇ(笑)。僕としてはスタジオ外部からもガンダム作品を応援出来る環境でもあるので、不定期でもいいので『ガンダムエース』での仕事は続けたいと思っています。
——では、最後にひとことお願いいたします。
ことぶき とにかく今は精鋭揃いのスタッフの中に混ざり、どれだけ迷惑をかけないように役に立っていけるかだけですね。公開までまだ暫くありますが、作品の完成を楽しみにしていただければと思います。それから、この現場に立たせてもらうきっかけとなった『ガンダムエース』という雑誌、そして僕が『カイ・レポ』『カイ・メモ』を描くにあたりずっと応援してくれている読者の皆様と声優の古川登志夫さんには、改めてここに感謝の気持ちを伝えたいです。感謝、感謝です。

 リレーインタビュー連載、次回はことぶきさんと二人で安彦絵の練習をされていたという総作画監督の西村博之さんです。
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