第4回
キャクターデザイン、総作画監督
西村 博之
リレーインタビュー4人目に登場していただくのは、総作画監督をつとめる西村博之さん。数多くの作品に参加し、作画監督として高い評価を得ている西村さんは、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)という作品と安彦良和総監督の描く絵の表現について、どのような思いをもって作品に参加しているのかを語ってもらった。
わりと早い段階からスタジオに入っていたんですが、作業体制がなかなか決まらなくて、同時期に来たことぶきつかささんと2人だけで、作業開始を待っていました。ただ、時間もあったので、絶対に出てくるキャラクターは必要になるから、設定のラフを、単行本を見ながら作ってしまおうと作業をしていました。僕の方はモブのキャラクターデザインをしつつ、二人でひたすら安彦(良和)さんのキャラを描いているという時期がありましたね。
それ以外にやることがなかったので、改めて単行本を読み直したり、一日中模写をしたりと、初期の頃は安彦さんの絵の雰囲気を手に馴染ませる作業をしていたという感じでした。
僕らの世代だと、安彦さんのアニメと言えば劇場版『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙』あたりのイメージというか、インパクトが強いんですよね。「ああいう映像化を、今やることできるのか?」というと、技術的な問題で実現することはできないわけで、その辺りで未だに試行錯誤している段階ですね。
今のアニメーションの絵というのは、自然体の絵が多くて、あまり主張をしないんです。でも、安彦さんの絵というのは表現が明確なのですごく主張が強いんですね。曖昧な絵を一切描かない、身体のちょっとしたねじりとか締まり具合も全部線で表現してしまうので、絵としての密度が高くて、集中力が要求されている感じがしますね。そのため、見た目の情報量以上に表現の情報密度が高い。描き込むわけではないんですが、「塊感」がすごくあるというか。キャラクターの意志が全部絵に乗っている感じがあるので、軽く描けないという印象がありますね。
CGをどう使うかという部分も含めて、いきなり本編に入るのではなく、基準となる作業ができたという意味では、あのPVをやっておいて本当に良かったですね。
『THE ORIGIN』はもともと漫画なので、絵の表現に幅があるので、スタジオでも厳密に描き方を決めたりせず、幅のある部分をその場その場の感覚で変えてもいいんじゃないかと。あくまで表現を優先するようにしたいと思っています。
また、安彦さん自身がレイアウトチェックをしていまして、その段階でいろいろと指示を入れてくださるので、そうした経験は若手にはいい機会だと思いますね。あのくらいの人に直接絵を見てもらえるというのは、希有な機会だと思いますし、その経験を今後に活かして欲しいです。もちろん、僕にとってもいいチャンスになっています。
僕自身は、『THE ORIGIN』の仕事の話を聞いた時は、この仕事をやることに何か意味を見出そうと考えていたんです。自分としては、もうちょっと絵がうまくなりたいなという思いがずっとあったので、一度しっかりと安彦さんの絵を描くことで、自分の技術を上げる、あるいは落ちないように維持するという意味でやった方がいいかと思いました。とは言え、安彦作品ですから、やっぱりハードルは高いなと思いましたね。
手描きの味も捨てがたいですが、表現が変わって行くことをもっと肯定的に見てもいいんじゃないかと思っています。
作画に関しては、CGの情報量を気にしたりはせずに、キャラクターの見せ方にこだわっていて、むしろCGの方が作画に合わせていろいろと考えてくれているというのが現状ですね。
CGの戦闘シーンは、板野(一郎)さんが冒頭のシーンを担当されているんですが、昔のガンダムのイメージとは違うけど、CGでやればこういう風になるんだなと。CGのいいところは、どんどん良くなっていく部分だと思うので、これからも更にクオリティが上がってゆくと期待しています。
リレーインタビュー連載は、次回、演出の江上潔さんにお願いします。
——『THE ORIGIN』には、どのような経緯で参加されることになったのですか?
西村 サンライズさんとは、これまであまりお仕事をしたことがなかったのですが、『黒神 The Animation』という作品に参加させていただいたのをきっかけに、その後『THE ORIGIN』へもお誘いいただきまして。当初は、どのようなことを担当するかも決まっていない感じでした。わりと早い段階からスタジオに入っていたんですが、作業体制がなかなか決まらなくて、同時期に来たことぶきつかささんと2人だけで、作業開始を待っていました。ただ、時間もあったので、絶対に出てくるキャラクターは必要になるから、設定のラフを、単行本を見ながら作ってしまおうと作業をしていました。僕の方はモブのキャラクターデザインをしつつ、二人でひたすら安彦(良和)さんのキャラを描いているという時期がありましたね。
それ以外にやることがなかったので、改めて単行本を読み直したり、一日中模写をしたりと、初期の頃は安彦さんの絵の雰囲気を手に馴染ませる作業をしていたという感じでした。
——西村さん自身は、ガンダムという作品や安彦作品にはどのように触れて来たんですか?
西村 ファーストガンダムを観ていた世代です。当時は、高校生でしたね。安彦さんに関しては、小説版『クラッシャージョウ』の挿絵も知っていたし、それ以前の『ろぼっ子ビートン』や『わんぱく大昔クムクム』のキャラクターも知っていました。もちろん、名前を自覚したのはファーストガンダムからですが、絵は知っていましたね。『アリオン』も読んでいましたし、一番影響を受ける時期において、一番人気がある作家であったので、当然ながらすごく影響を受けています。絵として、世界的にあそこまで描ける人もいませんから、すごい人だと思います。
——ということは、コミックスの『THE ORIGIN』は読まれていたわけですね。それを踏まえて、アニメ化の話を聞いた時には、どう思われましたか?
西村 大変な仕事になるだろうとは思いましたね。そして、現在は実際に大変な仕事になっていますし(笑)。僕らの世代だと、安彦さんのアニメと言えば劇場版『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙』あたりのイメージというか、インパクトが強いんですよね。「ああいう映像化を、今やることできるのか?」というと、技術的な問題で実現することはできないわけで、その辺りで未だに試行錯誤している段階ですね。
——やはり、安彦さんの絵をアニメとして再現するという部分が大変なのでしょうか?
西村 現在の安彦さんは、アニメーターの能力はとても高いのですが、アニメーターではないんですよね。そして、今回は「安彦アニメの再現」ではなく、コミックスの『THE ORIGIN』をアニメ化している。その部分が、僕の中でニュアンスが微妙に違うんです。今のアニメーションの絵というのは、自然体の絵が多くて、あまり主張をしないんです。でも、安彦さんの絵というのは表現が明確なのですごく主張が強いんですね。曖昧な絵を一切描かない、身体のちょっとしたねじりとか締まり具合も全部線で表現してしまうので、絵としての密度が高くて、集中力が要求されている感じがしますね。そのため、見た目の情報量以上に表現の情報密度が高い。描き込むわけではないんですが、「塊感」がすごくあるというか。キャラクターの意志が全部絵に乗っている感じがあるので、軽く描けないという印象がありますね。
——実際に作業に入る前に、うまくできるかどうかという心配もあったんですか?
西村 ありましたね。描けないということはないだろうと思っていましたが、どう見えるかが心配でした。そういう意味では、本編に入る前にトヨタのシャア専用オーリスのPVを作れたのは良かったですね。あれも、最初はどう受け入れられるのかが心配で。あそこに出てくるシャアは、特に設定もないまま、漫画のニュアンスを汲み取りながら僕が原画を描いているんですが、結果はわりと好意的に観て貰えて。CGをどう使うかという部分も含めて、いきなり本編に入るのではなく、基準となる作業ができたという意味では、あのPVをやっておいて本当に良かったですね。
——西村さんは漫画原作のアニメ化にも多数関わっていますが、『THE ORIGIN』は他の漫画原作のものとは、感覚が違いますか?
西村 普通の原作ものだと、アニメ用にかなり翻訳するんですよね。漫画の絵をそのまま描くことも不可能ではないんですが、現場の負担が大きくなるので、絵や線を整理した上で、オリジナルに近いように見せるということをやります。でも安彦さんの絵は、そのまま描かないと安彦さんのキャラにならないと思うんです。今回、絵コンテも安彦さんの絵で、それをレイアウトのベースに使っているカットもあるので、絵柄の再現度は高くなっていると思います。『THE ORIGIN』はもともと漫画なので、絵の表現に幅があるので、スタジオでも厳密に描き方を決めたりせず、幅のある部分をその場その場の感覚で変えてもいいんじゃないかと。あくまで表現を優先するようにしたいと思っています。
——安彦さんからの絵に対しての注文はありましたか?
西村 あまり言われていないですね。細かいところで言えば、ハモンがどうしても設定年齢よりも老けて見える絵になりがちなので、気を付けて欲しいという。色っぽく描こうとすると、老けがちになるんですよ。安彦さんの描く女性キャラクターは難しいです。逆に、ドズルをはじめとするオヤジキャラは描きやすくていいですね。
——作業的にも、スタッフへの作画修正指示も多くなってしまいがちなんでしょうか?
西村 やはり多いですね。スタジオの作業では、原画はもちろんなんですが、動画の負担も大きいです。キャラクターの芝居が大事なので、単に絵を直せば済むということにならないんです。原画マンにもいろんな人がいて、芝居をきっちりと描く人と、軽めに描く人がいるので、できるだけバランスをとるようにして、何とか原画修正に関してはうまくまとめられればと思ってはいるんですよね。また、安彦さん自身がレイアウトチェックをしていまして、その段階でいろいろと指示を入れてくださるので、そうした経験は若手にはいい機会だと思いますね。あのくらいの人に直接絵を見てもらえるというのは、希有な機会だと思いますし、その経験を今後に活かして欲しいです。もちろん、僕にとってもいいチャンスになっています。
——安彦さんと一緒に仕事をされた感想はいかがですか?
西村 本当に上手いなと思いましたね。仕事も早くて、絵コンテや設定画もすごい勢いで上げてくるんですよね。それを漫画の連載をやりつつ、ラフ画のチェックもやっているので、本当に凄いとしか言いようがないです。ご本人は、そうして仕事をするのが楽しいと仰っていました。僕自身は、『THE ORIGIN』の仕事の話を聞いた時は、この仕事をやることに何か意味を見出そうと考えていたんです。自分としては、もうちょっと絵がうまくなりたいなという思いがずっとあったので、一度しっかりと安彦さんの絵を描くことで、自分の技術を上げる、あるいは落ちないように維持するという意味でやった方がいいかと思いました。とは言え、安彦作品ですから、やっぱりハードルは高いなと思いましたね。
——今回は、モビルスーツをはじめとするメカ関係がCGで描かれていますが、キャラクター作画をするにあたって、メカのCGとの馴染みなどを気にされていますか?
西村 本来ならば、安彦さんのタッチを活かした映像にするならば、手描きの方がいいんです。ただ、あの物量を手描きでやるのは、スケジュール的に非常に難しい。CGの技術が上がって、昔に比べれば作画のテイストに近くなってきて、CGアニメーターが工夫をしていけば、手描きとは違う意味でのアニメーションの可能性が見えてくると思っています。手描きの味も捨てがたいですが、表現が変わって行くことをもっと肯定的に見てもいいんじゃないかと思っています。
作画に関しては、CGの情報量を気にしたりはせずに、キャラクターの見せ方にこだわっていて、むしろCGの方が作画に合わせていろいろと考えてくれているというのが現状ですね。
——そうした、CGとのマッチングに関しては、今西(隆志)監督とは何か話をされたんですか?
西村 ミリタリー関係については、いろいろと指示をいただいています。唯一あったとすれば、影の付け方についてですね。僕自身は、あまり影をつけないタイプでずっとやってきたんですが、今西監督から、影をガッチリと付けて欲しいというオーダーはありました。
——実際にできあがった映像についての感想を聞かせてください。
西村 自分としては、もうちょっと安彦さんのニュアンスに近くしたいというのがあったんですが、最初なのでこんなものかなと。これから、本数を重ねればもっと良くなると思いますし。CGの戦闘シーンは、板野(一郎)さんが冒頭のシーンを担当されているんですが、昔のガンダムのイメージとは違うけど、CGでやればこういう風になるんだなと。CGのいいところは、どんどん良くなっていく部分だと思うので、これからも更にクオリティが上がってゆくと期待しています。
——では最後に、完成を心待ちにしているファンにひとことお願いします。
西村 今まで、自分がやってきた仕事の中では、間違いなく最高レベルだと思います。それは、関わっているスタッフや、ちょっと特殊な制作スタイルを許してくれたプロデューサーのおかげでもあるんですが、キャラクターの表現はいつもより詰められましたし、芝居にもこだわることができています。現在は、とにかく第1話をしっかりと完成させるべく頑張っていますので、期待して待っていただければと思います。リレーインタビュー連載は、次回、演出の江上潔さんにお願いします。