第2回
脚本
隅沢 克之
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』の関係者による、リレーインタビュー連載の第2回目に登場いただいたのは、脚本を担当した隅沢克之氏。『新機動戦記ガンダムW』をはじめ多くの脚本を手掛けてきた立場から見た、『THE ORIGIN』の物語構築のポイントや総監督である安彦良和氏とのやりとりなどを語ってもらった。
今回映像化される『シャア・セイラ編』は、『機動戦士ガンダム』では描かれていない、安彦さんオリジナルなものであり、安彦さん自らがコンテを描いているんですが、漫画と絵コンテは同じように見えてまったく別物なんです。そして、その漫画から絵コンテへの橋渡しをするのが脚本の作業なんです。
漫画は、コマという形で時間が止まっているので、読む側の自分のペースに合わせて自由に読むことができますが、アニメーションは時間で流れているんです。そうした、時間の流れに合わせてシーンの配分や台詞の長さをアニメに合わせて調整するのが脚本の仕事なんですよね。よく原作ものを映像化する際には「脚本はいらないんじゃないのか?」といろんな人に言われますが、実は必要な仕事なんですよね。
ガンダム作品という意味では、『新機動戦記ガンダムW』の脚本を書いていた頃に、『機動戦士ガンダム』に関しては研究していたので、距離感は判っていたし、さらに踏み込みという部分で更にもっと研究しなおしてもいます。
もちろん、脚本に関しても、的確に指摘をしてもらえるので、こちらの作業が明確で、とても仕事がしやすい現場でした。
脚本を書いていて、安彦さんの全ての要望に応えられるわけではないんですが、それでもなるべく安彦さんの要望に応えるようにしていますし、逆に僕が出したアイデアに安彦さんが乗ってくれるというのはとても嬉しいものですね。僕の提案に対して、「じゃあ、こうしよう」と安彦さんがさらに提案してくれる。それは、ある種の化学変化みたいなものですよね。漫画から脚本にする段階で、いろいろな作業があるわけですが、今度はそれを同じ原作者が絵コンテにする段階でまた化学変化が起こる。同じ人が漫画も絵コンテも描いているのに、原作から変わっているんですよね。そういう、他の作品では絶対にありえない化学変化がこの作品には起こっているんです。自分の脚本が、その変化の要素のひとつになっていて、安彦さんの絵コンテを変えているというのが面白いですよね。そして、映像化にあたっては、そこに今西さんのテイストも入るわけだから、さらなる変化が起こるわけですよね。それが、どう完成するのかは本当に楽しみです。
スタッフによる頑張りで、先ほども言ったようなアニメ版ならではの化学変化が起こっていますので、完成を楽しみにしてもらえればと思います。
リレーインタビュー連載は、次回、キャラクターデザインのことぶきつかささんにお願いします。ところで、ことぶきさんって漢字にすると『寿司』になると最近気づきました。同じ雑誌で連載をしていた仲なのに、ホント、迂闊なヤツでスンマセン。
——どのような経緯で『THE ORIGIN』の脚本に関わることになったのですか?
隅沢 サンライズの専務の富岡(秀行)さんから「『THE ORIGIN』の脚本をやって欲しい」と言われたのがきっかけですね。その後、富岡さんと一緒に安彦(良和)さんの自宅にご挨拶に行って、構成などの打ち合わせをしたところから関わりが始まった感じです。そして、安彦さんと一緒に、そのまま明け方までお酒を飲んでしまいました(笑)
——原作漫画を脚本としてまとめ直すにあたって、安彦さんから何かオーダーのようなものはありましたか?
隅沢 安彦さんは「脚本というのは、完成しないものだよ」と言われていましたね。アニメの脚本は、絵コンテを描く人によりよいインスピレーションを与えるべきもの、作画の人によりよいキャラクターの絵を想起してもらえるものであって、そこに作品としての相乗効果が存在するというわけです。安彦さんの名言だと思います。脚本のすべてを守りきる演出家の方もいらっしゃいますが、安彦さんのように自由に発想して、絵コンテで変えて行く人もいます。そういうスタンスだから、脚本は自由に書いていいと言ってもらいましたね。安彦さんも絵コンテで、それをもとに自由に変えるから……というそんな話をしましたね。きっと今までそうしてきたのだと思います。
——そんな中で、『THE ORIGIN』だからこその苦労はありましたか?
隅沢 いわゆるアニメ−ションと言われると、原作作品の映像化、もしくはオリジナル作品の映像化がほとんどなんですよね。でも、今回に関しては『機動戦士ガンダム』という原作があり、さらにそれを元に描かれた漫画である『THE ORIGIN』というもうひとつの漫画原作が存在するわけです。つまり、二段原作みたいなものなんですね。だから脚本作業は、2つの原作をよく咀嚼した上で描かなければならないという部分では苦労しましたね。今回映像化される『シャア・セイラ編』は、『機動戦士ガンダム』では描かれていない、安彦さんオリジナルなものであり、安彦さん自らがコンテを描いているんですが、漫画と絵コンテは同じように見えてまったく別物なんです。そして、その漫画から絵コンテへの橋渡しをするのが脚本の作業なんです。
漫画は、コマという形で時間が止まっているので、読む側の自分のペースに合わせて自由に読むことができますが、アニメーションは時間で流れているんです。そうした、時間の流れに合わせてシーンの配分や台詞の長さをアニメに合わせて調整するのが脚本の仕事なんですよね。よく原作ものを映像化する際には「脚本はいらないんじゃないのか?」といろんな人に言われますが、実は必要な仕事なんですよね。
——印象としては、原作漫画からシーンの入れ替えなどがあるんですか?
隅沢 もちろんありますが、映像を観るとそんなに大きく変わったようには感じられないと思います。原作コミックスと比較しながら観れば違いがわかるかもしれませんが、基本的には変わってないと意識させるくらいになっています。「ここが、変わっている。ここにオリジナルが挟まっている」とはっきりと判るようではダメで、すごくさりげない積み重ねでやっていくのがいいシナリオだと思いますし、そんな構成にしてあります。
——『THE ORIGIN』に関わる前の段階では、安彦さんの作品は読まれていたんですか?
隅沢 『THE ORIGIN』は連載当初から読んでいましたし、安彦さんの漫画自体も『アリオン』の頃からファンで、すごく作品も愛していましたね。でも、実際に脚本にしようとすると、安彦さんの書く台詞のリズム感と僕のリズム感が違うんですよね。今まで、いろんなアニメの中で、原作付きの作品も脚本を書いてきましたが、それらとも全部違っていて、まさに安彦さん独自の感覚なので、まとめなおすのは大変でした。ガンダム作品という意味では、『新機動戦記ガンダムW』の脚本を書いていた頃に、『機動戦士ガンダム』に関しては研究していたので、距離感は判っていたし、さらに踏み込みという部分で更にもっと研究しなおしてもいます。
——今回のスタッフ感のやり取りで印象深いところはありますか?
隅沢 監督の今西(隆志)さんとは、一緒にお仕事をするのが初めてだったんですが、すごく仕事がしやすかったですね。意志の疎通をして、スタッフ間のチームワークを作るのが上手いんですよね。脚本の読み合わせの際も、始まる前に15分くらい最近の世界情勢とか趣味の話題とか、まったく関係のない話をするんですよ。いきなり脚本の読み合わせではなく、場の空気を暖めるのが上手くて。そのおかげで、「この人はこんなことを考えているんだ」というように、相手の考えや好みが判ってスタッフ達の共通認識が増える。そうすることで、チームとしてのいい人間関係が構築されていったなと思います。また、みんなで自衛隊の総合火力演習を観に行くような働きかけもしてくれたりと、すごくいいチームワークを作られる方でした。もちろん、脚本に関しても、的確に指摘をしてもらえるので、こちらの作業が明確で、とても仕事がしやすい現場でした。
——隅沢さん自身は、『THE ORIGIN』の脚本の依頼を受けた際の印象はいかがでしたか?
隅沢 『機動戦士ガンダム』が放送していた頃は、ちょうど高校生くらいの頃で、当時は受検勉強もアルバイトもしなくちゃならないという忙しい時期だったんですが、当然よく観ていましたね。そんないわゆるファーストガンダムに関わる部分の脚本を自分で書くようなことになるとは思ってもいなかったので、すごろくで言う「あがり」に到達した感じはありますよね。もう、これで終わりだという(笑)。おそらく、ほとんどのアニメの脚本家たちは「いつかガンダムを書いてやろう」という願望を持つ方が多いんじゃないでしょうか。そういう人たちを差し置いて、僕なんかが入ってしまって申し訳ないという気持ちがあります。
——『THE ORIGIN』という仕事は、やっぱり特別なところはありますか?
隅沢 安彦さんのコンテをもらった時に、自分の脚本をもとに描かれたコンテとは思えない重さを感じたんですよ。今更なんですが、安彦さんの絵コンテを観られるという部分に素直に感動しましたね。キャラクターの細かい表情や動作の色気とか自分が書いた以上に完成度が増していて、やはり素晴らしいなと思いましたね。脚本を書いていて、安彦さんの全ての要望に応えられるわけではないんですが、それでもなるべく安彦さんの要望に応えるようにしていますし、逆に僕が出したアイデアに安彦さんが乗ってくれるというのはとても嬉しいものですね。僕の提案に対して、「じゃあ、こうしよう」と安彦さんがさらに提案してくれる。それは、ある種の化学変化みたいなものですよね。漫画から脚本にする段階で、いろいろな作業があるわけですが、今度はそれを同じ原作者が絵コンテにする段階でまた化学変化が起こる。同じ人が漫画も絵コンテも描いているのに、原作から変わっているんですよね。そういう、他の作品では絶対にありえない化学変化がこの作品には起こっているんです。自分の脚本が、その変化の要素のひとつになっていて、安彦さんの絵コンテを変えているというのが面白いですよね。そして、映像化にあたっては、そこに今西さんのテイストも入るわけだから、さらなる変化が起こるわけですよね。それが、どう完成するのかは本当に楽しみです。
——では最後に、完成を待つファンにひとことお願いします。
隅沢 脚本家は、作画の作業に入る段階でほとんどの仕事が終わってしまっているので、野放し状態なんですよね。とは言っても、完全に手が離れたわけではなくて、安彦さんから脚本に関わる相談があれば、いつでも動きますし、打ち合わせにも参加します。現在は完成を待つという意味で、ファンのみなさんと同じようなものです。ひたすら待機している状態であります。スタッフによる頑張りで、先ほども言ったようなアニメ版ならではの化学変化が起こっていますので、完成を楽しみにしてもらえればと思います。
リレーインタビュー連載は、次回、キャラクターデザインのことぶきつかささんにお願いします。ところで、ことぶきさんって漢字にすると『寿司』になると最近気づきました。同じ雑誌で連載をしていた仲なのに、ホント、迂闊なヤツでスンマセン。