第1回
サンライズ プロデューサー

谷口 理


 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の関係者による、リレーインタビュー連載がスタート!
 第1回に登場するのは、サンライズのオリジンスタジオの現場プロデューサーである谷口 理氏。先日公開されて話題となった第1話「青い瞳のキャスバル」の90秒予告映像を中心に、アニメ版『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』がどのような作品として制作されているのかを語ってもらいました。
——『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)のアニメ化ですが、どのような作品として制作されているのですか?
谷口 いわゆる「ファーストガンダム」と呼ばれている『機動戦士ガンダム』のリメイクではなく、安彦(良和)さんが長年手掛けた漫画『THE ORIGIN』を、アニメ化するというスタンスです。できるだけ漫画原作を尊重しアニメ化することが重要なポイントとなっています。
 また、現在公開中の第1話の90秒予告映像をご覧いただければ判りますが、新たなチャレンジとしてメカ描写はCGを駆使したものとなっています。CGでメカを描くということに関しては、様々な意見もあるかと思いますが、サンライズ随一のCGチームであるD.I.D.をまとめている今西(隆志)さんが監督という立場でありますし、CGを駆使することで、今西監督の特性を大きく発揮することができると思っています。この2つの要素が、アニメ版『THE ORIGIN』の特徴と言えますね。
——『THE ORIGIN』のアニメ化は、「シャア・セイラ編」が全4話で映像化されるという発表がありましたが、具体的にはどこまで描かれるのでしょうか?
谷口 基本的には、ジオン・ダイクンの死から始まるキャスバルとアルテイシアの幼少期から始まって、キャスバルがシャアとして士官学校に入り、一度離脱してジオン軍に入るところまでですね。第1話の90秒予告でも映像が流れているとおり、ルウム戦役もちょっとだけ描かれます。コミックスでいう9巻から12巻までの「過去編」と言われる部分を、一部構成を変えて全4話で割っていくという感じですね。呼称に関しても、スタッフの間でも呼び方がいくつかに別れていたので、今回描かれるところまでをまとめて「シャア・セイラ編」と呼ぼうということでまとまりました。
——今回、安彦さんが総監督という立場であると発表されましたが、具体的にはどのような形で関わっているんでしょうか?
谷口 現状では、メインキャラクターの原案と絵コンテを中心に、作品の重要な部分に関わるチェック作業もされています。キャラクターの色彩から、メカデザイン、CGモデリングのチェックなどはもちろん、美術設定の打ち合わせや背景のチェックまでもされています。基本的には、安彦さんと今西さんには全部同じことをしてもらっています。安彦さんもアニメの現場は25年ぶりとかなり久しぶりということもあり、現場作業自体も当時からは変わっていますので、そのあたりを今西監督と一緒にやられているという感じですね。
——さらに、今西さんのミリタリーテイストへの造詣の深さや、CGに関しての知識という部分で、作業が分担されているというイメージでしょうか?
谷口 口頭できちんと安彦さんと今西さんの作業の分担を決めているわけではないのですが、何となく棲み分けが出来ている感じですね。例えば、安彦さんが描かれたキャラ原案をもとに、コスチュームデザインには今西さんが草彅琢仁さんと一緒に肩章や襟章などの軍服としての細かさを追求して新たにデザインしています。メカに関しても、カトキハジメさんや明貴美加さんの手掛けたデザインを、今西さんが中心となってミリタリーテイストを加えて精度を上げているというような感じですね。今西監督は、そうしたミリタリーやCGに精通していらっしゃるので、その知識を注入していただいています。
——物語は、漫画をそのまま辿って描かれるのですか?
谷口 基本は一緒です。でも、安彦さん自らが「アニメは変えていいんだよ」と仰っていて、ご自身からそれを発信するために一部コミックス版とは違うシチュエーションのコンテを描かれていたりもしています。
 絵コンテに関しては、安彦さんと今西さんが描かれていて、安彦さんは「今西さんがイメージするところも入れればいい」とも言われていますね。ですから、漫画を遵守するのではなく、スタッフがある程度自由にやれるように、いい変え方ができるならば、どんどん変えて欲しいという形で作業を続けております。
——今回は、有能なスタッフが多く集まっていることも、すでにファンの間では話題になっていますね。
谷口 そうですね。今回は、演出に江上潔さんと板野一郎さん、美術監督に池田繁美さん、脚本には隅沢克之さん、総作画監督に西村博之さん、音響監督に藤野貞義さんなど、たくさんのスタッフに集まっていただいてしのぎを削ってもらっています。また、音楽は服部隆之さんにご参加いただき、大河ドラマ的な重厚な音楽にも期待できそうですので、そのあたりも楽しみですね。
 サンライズの看板でもあるガンダム作品であり、日本のアニメの中でも屈指のタイトルですから、僕らもスタッフィングに関しては慎重に行っていますし、プレッシャーはありますね。その一方で、優秀だから連れてきているのではなく、作品を作る中で優秀な人材も育てていきたいという思いも込めてスタッフを集めてもいます。『機動戦士ガンダム』で優秀な人材が育ったおかげで、僕らの世代がまだガンダムを作らせてもらえているわけですし、その後『機動戦士Zガンダム』、『機動戦士ガンダムZZ』と作品が続くことで、素晴らしい人材がたくさん世に出ていると思いますし、それこそがガンダムの歴史だともいえます。僕らの『THE ORIGIN』も歴史になるわけですし、ここで育った人材が十数年後に「『THE ORIGIN』をやっていたあの人ですよね」と呼ばれるようにしていけたらと思っています。ベテランで優秀な人も必要ですし、若いスタッフの力も必要ですので、一緒に作業することでアニメーションという文化と技術が継承されていって欲しいなと思っています。
——第1話の90秒予告では、安彦さんが漫画で描いたテイストとCGの融合という部分に注目が集まっていますが、この形になるまでいろいろとトライアルはされて来たんですか?
谷口 トヨタさんから発売された自動車「シャア専用オーリス」のCMというのは、実は『THE ORIGIN』チームが作ったものなんです。今西さんが絵コンテを切って、D.I.D.がCGを制作し、キャラクター部分は総作画監督の西村さんが全部原画を描いていますし、背景も池田繁美さんが担当しています。その他、撮影や音響監督も『THE ORIGIN』と同じスタッフで、「シャア専用オーリス」のノウハウが『THE ORIGIN』の映像制作にフィードバックされているカタチになったんです。あの映像をサンライズ社内で見せたところ、いい評価をいただくことができて我々も自信を深めました。そういう意味では、1年以上前からテストを重ねてきましたし、現在も制作をしながらいろいろと試行錯誤しているという感じですね。
——今回、第1話の90秒予告によって明らかになった部分を中心に話を伺ってきましたが、今までの話を踏まえて、改めて第1話の90秒予告を見直すならばどこに注目してほしいですか?
谷口 ようやく見せることができるようになった、シャア専用ザクの映像ですね。ルウム戦役のシーンは、板野一郎さんが演出を担当しています。板野演出でありながら、CGを制作しているのはD.I.D.ですから、CGチームがどのように板野演出を映像化したのか、その一端を知ることができると思います。シャア専用ザクがサラミスを破壊するシーンは、モデリング自体の精度も高くて、あそこに辿り着くまでに数ヶ月を要しているくらいです。
 シャア専用ザクのコックピットの内部も、カトキハジメさんがデザインしたものをモデリングして作り込みがされているので、今までのコックピット表現とはまた違ったものになっているのが判ります。
 それから、第1話の絵コンテの多くのパートを安彦さんが描いていまして、安彦さんの絵はどれも緻密なんですよね。まるでレイアウトを描いてもらっているようで、絵コンテを拡大してレイアウトの参考にしてもらっています。その描き込みは、わずかな手の動きや表情などもキャラクターの芝居の参考になっていまして、そうした細かい動きもちゃんと映像から味わうことができると思います。
 また、先ほど言った衣装に関する細かいこだわりに関しても、例えばキシリアの着ているムンゾ自治共和国の保安隊の衣装などの描き込みも改めて見ていただければ理解してもらえるはずです。もちろん、コックピット内のシャアの衣装も、まだ角のないヘルメットに加えて、軍服も細かく作り込まれています。僕もアニメーションには十数年関わってきましたが、ここまで細かいものは初めてですね。それらに注視して、再び予告を見て貰えるとそのこだわりの深さを理解してもらえると思います。
——では、最後に完成映像を待ち望むファンにひとことお願いします。
谷口 これまで、『機動戦士ガンダム』の映像では、数カットしか描かれなかった、ガンダムファンが観たいと思っていたシャアとセイラの過去がついに映像化されます。安彦さんも『THE ORIGIN』を描きながら、手応えを感じたと仰っていた部分なので、それが漫画版とは異なって、時系列に沿った形で映像化されるので見やすく、判りやすい構成になっているはずです。そして、『THE ORIGIN』という作品が、どのくらい緻密に映像によって再現されるかを楽しみに待っていただければと思います。

 リレーインタビュー連載、次回はシナリオの隅沢さん、お願いします。
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