宇宙世紀事始め Ⅱ その4
「アズナブル家の人々」

 U.C.0071、テキサス・コロニー。
 ひとつの出会いが、ふたりの青年の運命を変える。

 サイド5のルウムは、地球と月の間に位置するラグランジュ・ポイントのひとつ、L1の周りを準安定的に周回するハロー軌道に築かれたスペースコロニー群の名称だ。
 月の裏側にあるL2周りのハロー軌道に築かれたサイド3のムンゾからは、一番近いコロニー群でもある。

 このルウムにあるテキサス・コロニーは、スペースコロニー建造のバブル期にテーマパークとして建設されたものだったが、バブル終焉で資金が途絶えたため、完成を見ずに放置された経緯があった。
 そのコロニーを私的に購入したのが、YASHIMAカンパニーのCEOシュウ・ヤシマである。停止していた建設工事は、カンパニーの潤沢な資金が投入されたことで続行され、テキサス・コロニーは完成した。

 テキサス・コロニーは、もともと北米の西部開拓時代風のテーマパークであったことから、その意匠を継続して取り入れることで後発のコロニーとしては異例の個性を発揮して、そのスタイルを楽しみにした多くの移住者を迎え入れることができた。
 人々はカウボーイ風の衣装を着用し、馬も飼育され、ログハウス風の建物や木彫り風の看板などが目立つ、レトロだが味わいのある街並みがその特徴として喧伝された。

 テキサス・ビレッジには、移住者へのコンシェルジュ的なサービスを行うチーフマネージャーも設けられている。
 その職にあるのが、ロジェ・アズナブルという名の壮年だ。
 ロジェは、その仕事の傍らで、妻のミシェルと共にテキサス・コロニーの中心街であるセンター・ビレッジでファミリーレストランを経営している。

 そのロジェとミシェル夫妻のアズナブル家には、ひとり息子がいた。

 シャアという名の青年は、真摯で誠実な父ロジェとは違って、快活で陽気で流行に熱しやすい性質を持っていた。
 当時、ジオン自治共和国と国名を変えたザビ家は、スペースノイドの意志を糾合しようと、反連邦を謳うプロパガンダを積極的に行っていた。
 地球に住む人々であるアースノイドに簒奪された、宇宙移民者たちスペースノイドの権利を取り返すという主張は、血気盛んなシャアのような青年たちを魅了していったのである。
 ジオン・ズム・ダイクンの語った革新、ニュータイプ思想の実現。
 多くの若者達が、ザビ家のギレンが説いた言葉に心酔して、その理想に加わることを夢見た。

 ルウムの中央コロニーにあるハイスクールに通っていたシャアも、そのプロパガンダの影響を諸に受け、ジオンの国防軍士官学校の学生募集を知ると、早速願書を提出。
 難関を突破して入学許可を勝ち取った。

 よもや、そのダイクンの遺児が目前にいたとは気づかずに……。

 シャアが、テキサス・コロニーに移住してきたマス家の兄妹と出会うのは、彼が士官学校の入学試験にチャレンジする少し以前のことになる。
 テキサス・コロニーの所有者シュウ・ヤシマからの紹介で移住してきたという資産家テアボロ・マス。
 そのふたりの子供のうちのひとりが、自分とよく似た風貌を持っているらしいことを父から聞いていたシャアは、里帰りの際に、その青年とはじめて出会った。

「エドワウ・マス!」
「シャア・アズナブルだ!」

 ハイタッチした金髪の青年は、確かにシャア自身とよく似ていた。
 違うのは、シャアがとび色の瞳であるのに対し、エドワウが青い瞳だったことぐらいだ。

 よく似た面影の青年ふたりの出会いは、そののちの宇宙世紀の歴史に大きな影響を与えることとなる。
 シャアとエドワウが似ていなければ、歴史の歯車も変わっていたかもしれない。
 士官学校入学のためにジオン自治共和国へ向かうシャアに、エドワウことキャスバル・レム・ダイクンは同行する。
 そのエドワウの密かな決意は、その後のふたりの人生を一変させる事件へと向かうのだ ——。
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