宇宙世紀事始め Ⅱ その3
「ヤシマ家の人々」

 宇宙世紀に行われたスペースコロニー建設は、官民双方の総力が結集された一大事業だ。
 各ラグランジュポイントには、サイドと名付けられたコロニー群が多数建造されたが、その建造には、設計施工、資材と人員の調達等々を実際に担った多くの複合企業の存在があった。
 コロニーを建造する傍らで、それらの複合企業は、地球連邦政府、なかんずく地球連邦軍とも密接なつながりを構築する。
 各コロニーの治安維持に必要不可欠な装備品の数々は、連邦軍のオーダーに応えた各企業の努力によって産み出され、生産されたからだ。
 おのずと莫大な利益と知識の研鑽が、その企業努力に報いられる形で蓄積されていったのが、経済的にも順風だった宇宙世紀初期の半世紀だったといえよう。

 その複合企業のひとつに、シュウ・ヤシマのヤシマグループも名を連ねていた。
 スペースコロニーの建造と、連邦軍の装備品(兵器等々の)開発にも優れた実力を発揮したヤシマグループで、宇宙世紀が半世紀を経た時点で頂点に立っていたシュウ・ヤシマは、連邦軍中枢との連携も怠らず、そのパイプも太く形成していた。
 のちに地球連邦軍とジオン公国軍との終戦協定を演出するゴップ大将、レビル大将亡き後の一年戦争の幕引きにおいて活躍する、かの大将ともシュウは旧知の間柄だった。

 シュウはまた、堅実な人柄で多くの企業人や政治家ともつながりがあり、コロニー開発に関わるヤシマカンパニーCEOという立場もあって、コロニーの私的所有も果たしていた。
 そのコロニーの一基が、サイド5、ルウムに位置するテキサス・コロニーである。

 サイド4、ムンゾ自治共和国の中枢に加わっていたジンバ・ラルが失脚後、地球へ亡命した際にその身を寄せた、企業人テアボロ・マスともシュウは知己の間柄だった。

 U.C.0071、夏——。
 スペインのアンダルシアに居を構えていたテアボロの自宅が襲撃された。
 その襲撃事件を聞いたシュウは、すぐに友を見舞う。
 密かにテアボロからジオン・ズム・ダイクンの遺児達を保護していた事情を聞いていたシュウは、襲撃事件の真相がジンバ・ラルとダイクンの遺児達の抹殺を図ったザビ家の魔手によるものだと気づく。
 テアボロの身と共に遺児達の安全を図るには、凶行をも厭わないザビ家に恭順の意を表する必要があると考えた。

 あえてザビ家に監視されやすい場所にいたほうがよいと、サイド5、ルウムのテキサス・コロニー行きをテアボロに勧める。
 その説得の際に同行させていたのが、当時15歳の愛娘である。
 シュウは、テアボロに娘をこう紹介した。若年ながら学業優秀で、宇宙飛行士を夢見て、飛び級でカレッジに進学する予定だと。
 その少女こそ、のちのホワイトベースの操艦を務めるミライ・ヤシマ。
 1年戦争の末期において多大なる戦果を遂げた奇跡の艦の操舵を預かることになる女性だ。
 ミライがもし、宇宙飛行士を夢見ず、スペースクルーザーの免許を取得していなかったら、ホワイトベースの命運もサイド7出立時点で尽きていたかもしれない。

 ミライは、父の友人であったテアボロが養女としていたセイラと、ホワイトベースで出会うことになるが、セイラがシャア・アズナブルの実の妹だという素性が白日に晒されるまで、マス、という名字を思い出すことはなかったようだ。

 惨劇のテアボロ邸で、幼いセイラと出会ったとき、正確には悲運の兄妹(エドワウとセイラ)の姿をテアボロ邸の丈高い窓の中に見たとき、ミライは深い憐憫の情を寄せた。ふたりの行く末の安らかなることを祈って……。

 そして、ヤシマ家がサイド7に移住していた、U.C.0079——。
 ジオン公国軍のザクⅡの強襲から避難したホワイトベースで、テアボロ邸にいたふたりはそうとは知らぬまま運命的な再会を果たすことになるのだった。
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