宇宙世紀事始め Ⅰ その2
「宇宙移民時代到来」

 U.C.0001 (ユニバーサル・センチュリー、トリプルオーワン)
 宇宙世紀元年が制定された年は、宇宙移民が開始された年でもある。

 その前段として、人々には、地球圏という概念が提示されている。
 この地球圏とは、地球、月、スペースコロニー群で形成される人類の生活領域をさしている。

 地球圏においては、地球からの重力と月からの重力が、ちょうど釣り合う均衡点が5つ存在する。月は、地球の回りを公転しているわけだが、この重力の均衡点は月の公転に同期して動き、地球から見ても、月から見ても、つねに同じ方位と距離にあるように見える。

 これを地球-月系のラグランジュ・ポイントといって、宇宙世紀におけるスペースコロニー群は、これらポイントのまわりに存在する、特殊な軌道に設置されている。

 各ラグランジュ・ポイントには番号が振られていて、地球と月を結ぶ直線上で、月から見て地球側にあるL1と、地球とは反対側にあるL2。そして地球を回る月の公転軌道において、地球をはさんで180度反対の少し外側にL3。

 この3点は、西暦1760年頃、レオンハルト・オイラーによって発見されたもので、制限三体問題におけるオイラーの直線解という。

 さらに、西暦1722年に、ジョゼフ=ルイ・ラグランジュが、地球を回る月の公転軌道上で、地球と月を結ぶ半径を底辺とした正三角形の頂点に、均衡点をふたつ見つけた。月の公転方向前方60度に位置するL4と、後方60度にあるL5と呼ばれる2点だ。

 これらラグランジュ解が指定する位置に、スペースコロニーという新天地を建造するというアイディアを発表したのが、ジェラルド・オニールである。西暦1969年のことだ。

 オニールの生きていた西暦1960年代から1970年代、世界人口は30億人から40億人に爆発的に増加している。
 オニールのスペースコロニーという発想は、人口爆発という近未来に対するひとつの解として、人類に提案されたものでもあった。

 その時代から下って、実際に世界人口が100億を越えたといわれる西暦末期。

 地球上の人口飽和状態を打開するために、スペースコロニーの建造と宇宙移民を実現すべく、人類は決断する。
 食糧問題、エネルギー問題、環境問題、国家間紛争など、喫緊の最重要課題だらけの人々にとって、起死回生の解決策のように喧伝された結果、巻き起こった時代の風が、おそらく未曾有のムーブメントを形成した。
 結果、人々はその一大プロジェクトを推進する巨大な政体を選択する。
 地球上の諸国家地域を一体的に統括する事を可能とした、地球連邦の設立である。

 地球連邦は、地球と月と新天地スペースコロニーを地球圏という新たな概念で捉え、その一括統治を実現するために、史上最大の国家組織として発足した。
 統治機関として、諸国家地域の上位に位置づけられた連邦政府議会は、強力な政治力を発揮し、スペースコロニー建造と宇宙移民政策を推進していく。

 「新天地スペースコロニーでの夢の新生活をあなたも!」というコロニー公社のキャッチコピーは、移民志願者の心を捉え、家族ごと地域ごとに応募する人々が増加。片道の切符を手にして、人々は各スペースコロニーへと旅立った。
 だが、地球を離れない人々も存在した。既得権益を十二分に謳歌していた権力層とその関係者は容易には宇宙に上がらなかったのだ。
 宇宙移民が、「棄民」だったのではないかという疑いは、U.C.0050年代には、多くのサイドで公然となっていく……。

 ラグランジュ・ポイントのうち、L4とL5は重力的な谷になっていて、まわりにある小惑星などを引き寄せる性質がある。逆に、この安定点から遠ざかろうとする物体は、コリオリの力によって軌道が曲げられ、L4またはL5の回りを周回する、インゲン豆のような形の安定した軌道をとる。

 L4近傍の安定した軌道上に、サイド2、ハッテと、サイド6、リーア。
 L5近傍の安定した軌道上に、サイド1、ザーンと、サイド4、ムーアというスペースコロニー群が建造された。

 一方、オイラーの直線解に相当するL1、L2、L3は、重力的には山の頂上のような場所で、その場所から外れ始めると、どんどん遠くに離れていく不安定性がある。ただし、地球と月を結ぶ直線に垂直な面内に、ラグランジュ・ポイントを準安定的に周回する、ハロー軌道と呼ばれる軌道が存在する。

 ハロー軌道という名称は、歴史的にはL1の回りの軌道について名付けられたもので、地球から月を眺めた時、月のまわりを光背(ハロー)のように取り巻いて回って見える事からきたものだった。

 そこで、L1まわりのハロー軌道にサイド5、ルウムと呼ばれるコロニー群が築かれ、L2まわりのハロー軌道にサイド3、ムンゾが築かれた。

 特にサイド3、ムンゾは、のちにジオン公国が勃興し、反連邦を掲げての独立戦争を惹起することとなる。
 位置的な不安感が、月の裏側であるという辺境感とあいまって、ムンゾ市民の心理状態を好戦的に動かした一面はあったろう。

 なお、U.C.0079年、連邦軍初のモビルスーツ、ガンダムが開発された場所はサイド7、L3に位置していた。
 宇宙移民開始から80年を目前としたその年。
 もっとも後発開発のコロニー群だったサイド7で、連邦VSジオンの宇宙戦争の帰趨を決する遠因となる事件が勃発するのも、浅からぬ縁といえるのかもしれない。


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