宇宙世紀事始めⅠ その1
「地球と月の距離感」
「地球と月の距離感」
西暦1961年から1972年にかけて、アメリカ航空宇宙局(NASA)が実施した人類初の月への有人宇宙飛行計画、アポロ計画。人類の宇宙開発史において、輝ける実績を残したアポロ宇宙船は、地球から月までの距離約38万キロをわずか100時間余りで到達した。
100時間とは、4日ほどの日数である。意外にも西暦20世紀の世界でも、月までの旅行時間は短かったのだ。
若干、縮尺は違うが、時間の感覚だけでいうと、江戸時代の飛脚が、江戸から京都まで走った時間もわずか3、4日。忠臣蔵で有名な、赤穂のお殿様切腹の報は、江戸から赤穂(いまの兵庫県の南西部)へ早籠で、わずか5日で一報が着いたという。
近年、時代の生んだテクノロジー、汽車、自動車、高速船、高速鉄道、航空機によって、地球も、次第に狭くなっていったと、よく言われる。だが、そんな時間の間近さで感じられるかもしれないのが、案外、地球と月の距離感だ。
宇宙世紀時代のスペースコロニーへの旅なら、テクノロジーの格段の進歩の恩恵も受けて、もっとぐっと近くに感じられるのではないだろうか。
そんな近しい空間に住んでいるはずの地球の人々と、宇宙に移住した人々の間で、埋めがたい心の距離がある……というのが、この宇宙世紀の時代の空気感である。
宇宙世紀。
ユニバーサル・センチュリーと呼ばれた新たな時代の年号は U.C. と表記された。
U.C.0001 宇宙移民開始をもって宇宙世紀に移行。
U.C.0027 初の月面恒久都市、フォン・ブラウン市完成。
U.C.0040 総人口の40%が宇宙への移民を完了
U.C.0041 小惑星ユノー(ルナツー)月軌道上に定着。
人類の移民拡大の勢力範囲を「地球圏」と呼ぶようになり——。
スペースコロニーと呼ばれる人工の居住空間には、地球から多くの人々が移り住み、半世紀以上の歳月が経過した。
その間に、各コロニーには、移民者用のスペースコロニーが順次増えていき、コロニーはサイドごとに連携を取りつつ自治を行なっていたが、政治的な枠組みにおいては、地球上に居住する人々が主張する主権の母体、地球連邦政府の管理下に組み込まれていた。
それが、宇宙に住む人々に対して、地球側の人々がある種の優越感を持っていた結果であることは否めない。
主権なき宇宙の人々は、地球側からの経済的な要求や政体からの圧迫に対し、常に弱い立場を強いられざるを得なかった。
一方的なその状態は、陰に陽に多種多様な軋轢を生み、事態を解決しようとする『力』が働き始めるのは必至であったのかもしれない。
そんな時代に登場したのが、ジオン・ズム・ダイクンという一人の男である。
彼は、ある思想をもって、宇宙に住む人々に訴えた。
その思想は、過激で先鋭的で先進的で、それ故に多くの宇宙の人々の心を捉えるのだった。
だが、時代は、ダイクンの表舞台登場からわずか10年後。
ダイクンの突然の死によって、急速な変転を開始することになる。
その激流に呑み込まれていくのが、ダイクンの遺したふたりの子供、キャスバルとアルテイシアである。
幼い兄と妹は、大切な人との別離を経て、スペースコロニーと地球の間をさまざまに旅していくことになる。
幼い二人が感じる、月と地球とコロニー、その距離感は、遠く感じられる、大切な人との距離感そのものであるかもしれない。
それは、アポロ以前の人々が、地球から眺める月への距離よりももっと無惨にずっと遠くに感じられたのではないだろうか……。
100時間とは、4日ほどの日数である。意外にも西暦20世紀の世界でも、月までの旅行時間は短かったのだ。
若干、縮尺は違うが、時間の感覚だけでいうと、江戸時代の飛脚が、江戸から京都まで走った時間もわずか3、4日。忠臣蔵で有名な、赤穂のお殿様切腹の報は、江戸から赤穂(いまの兵庫県の南西部)へ早籠で、わずか5日で一報が着いたという。
近年、時代の生んだテクノロジー、汽車、自動車、高速船、高速鉄道、航空機によって、地球も、次第に狭くなっていったと、よく言われる。だが、そんな時間の間近さで感じられるかもしれないのが、案外、地球と月の距離感だ。
宇宙世紀時代のスペースコロニーへの旅なら、テクノロジーの格段の進歩の恩恵も受けて、もっとぐっと近くに感じられるのではないだろうか。
そんな近しい空間に住んでいるはずの地球の人々と、宇宙に移住した人々の間で、埋めがたい心の距離がある……というのが、この宇宙世紀の時代の空気感である。
宇宙世紀。
ユニバーサル・センチュリーと呼ばれた新たな時代の年号は U.C. と表記された。
U.C.0001 宇宙移民開始をもって宇宙世紀に移行。
U.C.0027 初の月面恒久都市、フォン・ブラウン市完成。
U.C.0040 総人口の40%が宇宙への移民を完了
U.C.0041 小惑星ユノー(ルナツー)月軌道上に定着。
人類の移民拡大の勢力範囲を「地球圏」と呼ぶようになり——。
スペースコロニーと呼ばれる人工の居住空間には、地球から多くの人々が移り住み、半世紀以上の歳月が経過した。
その間に、各コロニーには、移民者用のスペースコロニーが順次増えていき、コロニーはサイドごとに連携を取りつつ自治を行なっていたが、政治的な枠組みにおいては、地球上に居住する人々が主張する主権の母体、地球連邦政府の管理下に組み込まれていた。
それが、宇宙に住む人々に対して、地球側の人々がある種の優越感を持っていた結果であることは否めない。
主権なき宇宙の人々は、地球側からの経済的な要求や政体からの圧迫に対し、常に弱い立場を強いられざるを得なかった。
一方的なその状態は、陰に陽に多種多様な軋轢を生み、事態を解決しようとする『力』が働き始めるのは必至であったのかもしれない。
そんな時代に登場したのが、ジオン・ズム・ダイクンという一人の男である。
彼は、ある思想をもって、宇宙に住む人々に訴えた。
その思想は、過激で先鋭的で先進的で、それ故に多くの宇宙の人々の心を捉えるのだった。
だが、時代は、ダイクンの表舞台登場からわずか10年後。
ダイクンの突然の死によって、急速な変転を開始することになる。
その激流に呑み込まれていくのが、ダイクンの遺したふたりの子供、キャスバルとアルテイシアである。
幼い兄と妹は、大切な人との別離を経て、スペースコロニーと地球の間をさまざまに旅していくことになる。
幼い二人が感じる、月と地球とコロニー、その距離感は、遠く感じられる、大切な人との距離感そのものであるかもしれない。
それは、アポロ以前の人々が、地球から眺める月への距離よりももっと無惨にずっと遠くに感じられたのではないだろうか……。