第24回
ガルマ・ザビ役
柿原 徹也
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)において、ザビ家に復讐を誓うシャアを語るうえで欠かせない存在と言えば、ザビ家の四男であるガルマ・ザビ。彼を演じるのは、柿原徹也さん。「坊や」と呼ばれながらも、ザビ家の御曹司として努力をするガルマは、どのような考えのもとで演じたのか? ガルマの役作りを中心に話を伺った。
もうひとつガルマの演技として外せないのは、(池田)秀一さんのセリフに影響されているという部分ですね。ほとんどのシーンが秀一さんと一緒なので、その演技や言葉に応じた演じ方というのも考えています。
シーンとしては、シャアに「歴史の歯車を回してみたくないのか?」と聞かれるシーンで、息づかいだけで演技するところは難しかったです。やはり、鼓動が早くなれば息づかいも激しくなるし、どこかの瞬間で「やるぞ」と決意する覚悟も息づかいに込めないといけない。とは言え、セリフではないので、観ている側がどうとるかも考えなくちゃならないですから。そうなると、分かり易い息をいれがちなんですが、この作品ではそれは許されないので、とても勉強になりました。
また、「暁の蜂起」に出る際の演説のシーンもすごく芝居に気を使いました。「軍監どの、バイザーを拾って間違いをお認めになるべきです」というシーンを手始めに、あの気弱だったガルマが連邦軍の高官に楯突く。それはシャアを守るため、シャアに気に入られるための行動なんですが、やがてわずかな時間で大勢の前で演説ができるように成長する。ここでも、やり過ぎると今度はガルマがただの出来る奴になってしまうし、とはいえひ弱だと誰も付いて来ない。そうしたバランス感がガルマを演じる上では全体的に難しかったですね。
収録現場では秀一さんとはあまり話ができなかったんですが、先日オーディオコメンタリーの収録で秀一さんと潘めぐみちゃんとご一緒させていただいた時に、「柿原くんは柿原ガルマを、めぐみちゃんはめぐみセイラを作ればいいんだよ」って言ってもらえたのは嬉しかったですね。
次回のリレーインタビューには、ガルマに続きリノ・フェルナンデス役の前野智昭さんにご登場いただきます。
—— 『機動戦士ガンダム』という作品に触れたのはいつ頃ですか?
柿原 僕は幼少期にドイツで過ごしていたので、『機動戦士ガンダム』という作品を知ったのは声優を目指して専門学校に入った時でした。先輩や同期の友達から「お前、ガンダムを観てないの?」と言われまして。周りの人間は、何でもかんでもガンダムで例えてくるので、「何言っているの?」という感じで、最初はついて行けなかったんです。さらには講師の先生にもアドバイスとして「ディレクターの中には、“ガンダムのアレっぽく演じて”という人もいるから、知らないと話にならない。日本のアニメーションの仕事をするなら『機動戦士ガンダム』は絶対に観ておけ」とまで言われたので、それから観た感じですね。
—— 実際に観た感想はいかがでしたか?
柿原 観ながら「同級生が喋る会話みたいなセリフだな」って思ったんですが、当たり前だけどこっちが先ですよね。それくらい、みんなに浸透していることに驚きました。さらには、今まで観てきたアニメのセリフやカット割りなんかにも影響を与えていることが判って、改めて「凄い」と思ったのが最初の印象ですね。ただ、後から観たせいか、前のめりにハマるというよりは、いろいろと参考になる作品というイメージでしたね。ガンダムシリーズという形では、その後も他の作品を観ていくんですが、最初に原点である『機動戦士ガンダム』を観ることができたのは良かったです。
—— 『機動戦士ガンダム』の中で印象深いところはありますか?
柿原 やはり、ライバルキャラのシャアですね。声もすごくカッコイイですし、ライバルとしてのゆとりというか、主人公のアムロの対比的な大人な魅力が印象的ですね。いつか、シャアのような役をやりたいと思っているんですが、まだまだですね。そのせいなのか、なぜかシャアの横にいる役ばかりやっていますが(笑)。だけど、僕は幸せ者だと思います。シャアの一番近くにいて、しかも一番面白い役をやらせてもらえるのは、役者冥利に尽きますね。
—— 『THE ORIGIN』の漫画原作は読まれていましたか?
柿原 全巻持っています。こちらは、とらえ方次第なのですが、僕は視点がシャアを中心に描いているように感じました。シャアの取り扱い説明書のようですよね。どんな風に成長して、復讐者としてジオン軍の中で成り上がって行ったのかが理解できましたし、彼を取り巻くキャラクターの人間模様もしっかりと描かれている。待ち受けている結末は知っているのですが、そこに辿り着くまでが滅茶苦茶面白いと思いました。声の仕事をするようになってから、漫画を読むのも仕事のうちになってしまったせいか、プライベートでは全然漫画を読まなくなっていたんですが、『THE ORIGIN』はすごく引き込まれて、夢中になって読んでいましたね。
—— 『THE ORIGIN』のガルマ役は、オーディションで決まったのですか?
柿原 オーディションを受けさせてもらって、役を頂きました。漫画を読んでいたので、ガルマ役はどうしてもやりたいと思っていました。オーディションでは重装行軍で滑落した時の「僕に指一本触れるな、触ったら殺す」というセリフを演じたんですが、かなり気合いを入れてやったのを覚えています。どの作品でもオーディションで落ちたくないと思っているのですが、ガルマ役はどうしても落ちたくないって臨んでいましたし、受かったと聞いた時には本当に嬉しかったですね。
—— ガルマ役に関しては、どのような役作りをされましたか?
柿原 今回は、シャア・セイラ編のみですが、僕としては一年戦争が始まって、ガルマが死んでしまうまでを考えてやらせてもらっています。士官学校に入学して宣誓をするシーンの幼稚な感じから、「暁の蜂起」を経て、地球に降りてシャアと再会して死ぬまで、多分、4〜5年くらいの期間だと思いますが、あの年代の人間にとってはいろいろと詰まっている時期だと思うんです。シャアに裏切られた散り際が大人になったガルマだとするならば、その期間で、どうやってあの幼稚な「坊や」から、大人になるのか? そういう意味では、第3話の中でも、大人に向けて成長しているように演じています。そういう意味では、映像化されるかどうかは判りませんが、そうした先までのプランを持ってガルマを演じています。もうひとつガルマの演技として外せないのは、(池田)秀一さんのセリフに影響されているという部分ですね。ほとんどのシーンが秀一さんと一緒なので、その演技や言葉に応じた演じ方というのも考えています。
—— 池田秀一さんに別のインタビューで、柿原さんのガルマは「思っていた以上にやんちゃで想定していたアプローチと違っていた」と伺ったのですが、ガルマの演じ方についてはどのように考えていますか?
柿原 今回の『THE ORIGIN』のガルマのセリフは、原点であるテレビシリーズの『機動戦士ガンダム』のものとはちょっと違っているように感じたんです。いわゆる、絵に描いたような「坊や」としてのガルマを演じてしまうと、本当に甘ったるい感じのキャラクターになってしまう。あれくらい、ちょっとやんちゃな部分がないと、シャアのセリフに踊らされて、大それた作戦に参加しないんじゃないかと思ったんです。ただちやほやされて甘やかされてきたのだったら、取り巻きを引き連れてちょっといい気になってしまうようなことはないだろうし、そういう部分があるからこそシャアも「こいつは、オレが言えば乗せられるな」と思ったんじゃないかなと。そういう意味では、プライドが高い、ザビ家の誇りを持っているという部分を強くしないと成立しないだろうし、それくらいやらないと勿体ないと思いましたね。
—— ガルマを演じるにあたって、難しかったところはありますか?
柿原 どこまでひ弱な感じにしていいのかという部分が、結構難しかったですね。腐っても軍人になろうと、士官学校に通っている男の子を、どこまでか弱くしていいのか? 御曹司といえど、彼なりにプライドはあるだろうし、ただの坊やにもしたくない。そこのバランスが一番難しかったですね。シャアは秀一さんなので、若かりし頃とは言っても大人びているし、圧倒的な存在感があるので、そこに引っ張られすぎると本当に子供っぽくなってしまうので、ちょっと背伸びをしている印象で演じようとは思いました。シーンとしては、シャアに「歴史の歯車を回してみたくないのか?」と聞かれるシーンで、息づかいだけで演技するところは難しかったです。やはり、鼓動が早くなれば息づかいも激しくなるし、どこかの瞬間で「やるぞ」と決意する覚悟も息づかいに込めないといけない。とは言え、セリフではないので、観ている側がどうとるかも考えなくちゃならないですから。そうなると、分かり易い息をいれがちなんですが、この作品ではそれは許されないので、とても勉強になりました。
また、「暁の蜂起」に出る際の演説のシーンもすごく芝居に気を使いました。「軍監どの、バイザーを拾って間違いをお認めになるべきです」というシーンを手始めに、あの気弱だったガルマが連邦軍の高官に楯突く。それはシャアを守るため、シャアに気に入られるための行動なんですが、やがてわずかな時間で大勢の前で演説ができるように成長する。ここでも、やり過ぎると今度はガルマがただの出来る奴になってしまうし、とはいえひ弱だと誰も付いて来ない。そうしたバランス感がガルマを演じる上では全体的に難しかったですね。
—— 池田秀一さんとは、『機動戦士ガンダムUC』(以下『UC』)でもフル・フロンタルとアンジェロという関係性で一緒に演じていますが、それを踏まえて今回ご一緒した印象はいかがでしたか?
柿原 『UC』の時とは目線が違いましたね。『UC』では、フロンタルはアンジェロが眼中になくて、その視線がバナージに向けられていることに怒っているという感じでした。でも、今回は士官学校でいつも一緒にいるポジションですからね。それに、ガルマをシャアから見下されるポジションとして演じると、アンジェロに被ってしまうなとも思ったんです。もっと大人になって、声を低くするとますます似てしまうだろうと。だから、ガルマにはちょっと少年っぽい部分を残しているんです。逆に言うと、「あのシャアと僕は同級生なのか……」と思うと、奇妙な感じでしたね。収録現場では秀一さんとはあまり話ができなかったんですが、先日オーディオコメンタリーの収録で秀一さんと潘めぐみちゃんとご一緒させていただいた時に、「柿原くんは柿原ガルマを、めぐみちゃんはめぐみセイラを作ればいいんだよ」って言ってもらえたのは嬉しかったですね。
—— 安彦さんや音響監督の藤野貞義さんからは何か指示みたいなものはありましたか?
柿原 演じるにあたって、特に何か言われることはなかったです。「ガルマというキャラクターは、言わなくても判るよね?」ということなのかもしれないですが。安彦さんからは、「今日の収録はガルマにかかっているから、よろしくお願いします」とだけ言われました。
—— 『THE ORIGIN』という作品は、柿原さんにとって印象深い作品という感じですか?
柿原 そうですね。嫌でも思い入れは深くなりますよね。『THE ORIGIN』という作品はズルくて、台詞のひとつひとつが名言みたいなものですから。今後、インターネットを含めて、いろんな形で僕の台詞も残っていくのかと思うと、そういう作品に携わっているという部分も含めて思い入れが深くなります。だからこそ、ひと言ひと言の重要さを噛みしめて台詞を言うようにしています。でも全ての台詞を大切に喋るとクドくもなってしまう。台詞には必ず「捨て台詞」というのがあって、それは意味のない台詞ではなく、他の台詞を立てるための台詞のことなんです。でも、つい全ての台詞を立たせてしまいたくなるくらいの魅力が『THE ORIGIN』という作品にはあるような気がします。
—— では最後に、『THE ORIGIN』の第3話の見所や、公開を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
柿原 見所は……全部なんですよね。この『THE ORIGIN』はガンダム世界に新しい風を吹き込むというか、アニメーションの新しい時代を象徴するものだと思っているんです。37年前に『機動戦士ガンダム』が放送されて、その世界観が生きていて、こんなに多くの人に愛され続けている。こんな作品に携われることに喜びを感じています。せっかく、『THE ORIGIN』が制作されている時代に皆さんも生きているわけですから、ぜひ、みなさんに観ていただいて、一緒に歴史の歯車を動かしてもらえればと思います。次回のリレーインタビューには、ガルマに続きリノ・フェルナンデス役の前野智昭さんにご登場いただきます。