第17回
演出
原田 奈奈
キャラクターの演技から背景の動きまで、本編の細部にわたって映像の見せ方にこだわるのが「演出」の仕事だ。今回は、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下『THE ORIGIN』)の第2話の演出を担当している原田奈奈さんから、劇中でのエドワウとセイラの描かれ方を中心に、細部までこだわった演出的な視点について話を伺った。
OVAの『装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端』という作品で、今西さんが監督、私が演出という形で1年くらい顔をつき合わせて仕事をしたことがあるので、仕事の仕方は判っているのですが、新たに気合いを入れなおしてやっています。
そうは言っても、最初にサンライズで仕事をして良かったなと思っています。もし先に他作品に関わっていたら、後からメカ物を受けるのは大変だったんじゃないか思うんですよね。何も判らないところでメカ物の作品に触れたので、その後は抵抗なくメカ関係の仕事をやれているわけですから。それから、好みの作品という点では、わりとドカンドカンと爆発したり、戦っているようなものが好きなんですよね。
また、心情表現と背景の動きも力を入れています。あのシーンでは風が吹いていることが重要なので、回りの木々をCGで作って揺らしてもらっているんです。昔だったら、背景絵として描くか、背景と質感が異なってしまいますが、手描きで動かすかしかないのですが、今回はCGで木の質感を見せつつ風で揺れている様子が描かれています。エドワウの心情表現に合わせて激しく木々が動いて欲しかったので、表情から背景まで、かなり気を使いました。
特に今西さんは、関わっているスタッフ全員の意見を聞いて仕上げたいという方なので、メカ作画監督の鈴木さん、キャラクターの作画監督の西村さんたちの全員で観て、「もう少しこうしてもらいたい」と、どんどんテストを重ねて形にしていっています。
リレーインタビュー連載、次回は第2話の主題歌を歌われた石田匠さんにご登場いただきます。
—— 『THE ORIGIN』には、どのような経緯で参加されたのでしょうか?
原田 元々、今西(隆志)さんとは何度もお仕事をさせてもらいまして、その縁で今西さんから声をかけてもらったという感じです。今西さんがいらっしゃるサンライズD.I.D.スタジオの仕事は継続的に何度かやらせていただいたのですが、ここまでガッツリと一緒に仕事をするのは久しぶりですね。OVAの『装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端』という作品で、今西さんが監督、私が演出という形で1年くらい顔をつき合わせて仕事をしたことがあるので、仕事の仕方は判っているのですが、新たに気合いを入れなおしてやっています。
—— これまでの原田さんのキャリアをふり返ると、ロボットものやメカものの作品をたくさん手がけていらっしゃいますね。女性演出家はあまりメカなどは得意ではないという印象が強いのですが、作品によって得意不得意という感覚はありますか?
原田 当初は右も左も判らない状態でサンライズに入ったんです。そこで最初にお仕事をしたのが富野(由悠季)さんのTVシリーズだったので、否応なくメカが出てくる仕事を始めたという感じですね。もちろん、入った時は世間一般の女性らしく、メカはあまり詳しくないレベルだったのですが、「よくわからないです」と言っていたら仕事にならないので、否応なくやりながら覚えていきました。そうは言っても、最初にサンライズで仕事をして良かったなと思っています。もし先に他作品に関わっていたら、後からメカ物を受けるのは大変だったんじゃないか思うんですよね。何も判らないところでメカ物の作品に触れたので、その後は抵抗なくメカ関係の仕事をやれているわけですから。それから、好みの作品という点では、わりとドカンドカンと爆発したり、戦っているようなものが好きなんですよね。
—— 『機動戦士ガンダム』(以下、『ガンダム』)や安彦良和さんに対しては、どのような印象を持たれていましたか?
原田 最初の『ガンダム』は普通のファンとして観ていて、アニメーションの仕事をしたいと思うきっかけのひとつにはなっていますね。安彦さんに関しては、トップ中のトップの方で、ある意味雲の上の人だったので、一緒に仕事をすることになるとは思っていなかったです。もともと、『THE ORIGIN』は連載が始まった当初から「アニメ化すればいいのに」という話を友人としていたので、「まさにその時が来た」という感慨はありますね。
—— 原田さんは第2話の演出担当ということですが、安彦さんからは第2話を演出するにあたって、どのような指示がありましたか?
原田 全体に関しては特に言われていなくて、むしろ細かいカットごとに要望を言われました。中でも、エドワウのキャラクターの変化に関してはかなりこだわった指示がありましたね。感情を表情にどこまで出すのか? 怒っているが故に無表情だったり、無表情なようで目だけ相手を睨み付けるとか、そういう細部のこだわりはお聞きしました。目で見せる表情に加えて、動きのタイミングも「それまでゆっくり動いていたのに、パッと相手に突っ込んで行く」という感じで、その時々の感情表現を、安彦さんご自身がチェックされたレイアウトにも細かく書かれていました。
—— 原田さんご自身は、エドワウというキャラクターを見せるのには、どの部分にこだわりましたか?
原田 やはり感情表現ですね。だんだんと心が荒んでいくエドワウの心情をどこまで表情に出すのかという部分はかなり気を使いました。内に秘めている部分もあるわけですからね。劇中では襲撃を受けて生身で戦うシーンがありますが、最初は怯えているシチュエーションなのが、ある一点を超えると反撃に転じる性格。逃げ回って怯えている心情が、だんだん相手に対する怒りに変わっていくという、内に秘めた部分などにはこだわりました。
—— 第1話と第2話で演出的な見せ方を変えようとされたりしていますか?
原田 特に変えようとは思っていません。時代設定的なものが、1話から時間が少し経過していて、子供時代と青年時代という違いがありますね。そうした時間経過によって、演出の仕方は自ずと変わってくるかと思います。
—— そうした中で、「ガンダムらしさ」を意識されたところはありますか?
原田 自分自身も最初の『ガンダム』世代なので、「シャアとはこういうもの」とか「セイラはこう成長する」というのが、頭の中で世界観が出来上がっている感じはあるんですよね。観ているファンの人たちもそれは同じだと思うので、そうしたイメージをなるべく壊さないようにするという部分は意識しています。
—— 演出の感覚としては、他の作品よりも密度感が高い印象はありますか?
原田 そうですね。今回は冒頭のスペインから始まって、モビルワーカーの開発秘話、そしてテキサス・コロニーとどんどん場所が変わりますし、さらにキャラクターの心情も変化していくので、ボリューム感はあるように感じます。それから、今回は開放型スペースコロニーとしてテキサス・コロニーが登場するので、「そもそも開放型コロニーの窓の外はどんな風に見えるのか?」、「それをどう表現するか?」という部分で今西さんと随分お話しました。
—— 今回の見所のひとつに、クラブ・エデンでハモンが歌うシーンがありますね。
原田 あのシーンは、安彦さんがかなりこだわっていまして、実際に演奏しているところを参考に撮影させてもらっているんです。楽器に関しても音に合わせて指を動かしたり、ハモンの色っぽく歌う仕草や雰囲気が見せられるようにという感じですね。観ている人が演奏している姿に違和感を覚えないようにしながら、その上でシーンの雰囲気作りをしています。
—— 第2話で原田さんが最もこだわったシーンはどこですか?
原田 やはり一番の見せ場である、ラストのエドワウとセイラの別れのシーンですね。あそこは『ガンダム』のTV版でも映画版でもその後の2人の再会につながる重要なシーンとして描かれているので、エドワウとセイラのそれぞれの感情が見えるようにできればと思いました。作画監督の西村(博之)さんも、それなりにカット自体が長くて、安彦さんの描くフワッとした動きを見せるのに苦労されたと思います。私としては、最後に少しだけエドワウの表情が見える部分はこだわりました。また、心情表現と背景の動きも力を入れています。あのシーンでは風が吹いていることが重要なので、回りの木々をCGで作って揺らしてもらっているんです。昔だったら、背景絵として描くか、背景と質感が異なってしまいますが、手描きで動かすかしかないのですが、今回はCGで木の質感を見せつつ風で揺れている様子が描かれています。エドワウの心情表現に合わせて激しく木々が動いて欲しかったので、表情から背景まで、かなり気を使いました。
—— その他、現場レベルで苦労されているところはありますか?
原田 手描きの部分とCGの部分を融合しなくてはならないところがいくつかありまして、そのシーンやカットに対して、こちらからどういう素材を提供したらいいのか、何回もテストを重ねてチェックして形にしていくという部分では手間がかかりましたね。特に今西さんは、関わっているスタッフ全員の意見を聞いて仕上げたいという方なので、メカ作画監督の鈴木さん、キャラクターの作画監督の西村さんたちの全員で観て、「もう少しこうしてもらいたい」と、どんどんテストを重ねて形にしていっています。
—— 演出としては、CGなどに関する知識なども必要になってきているのですか?
原田 本来必要なのでしょうけど、技術もどんどん進歩しているので、なかなか追いつけないところはありますね。演出に関しては、CGだけでなく、撮影に関しても今までとは違う段階に来ていますので、CGの見せ方自体もどんどん変わってきているんです。観る側にとっては、テレビ自体も大型化、高解像度化しているので、そういう部分も細かく表現していかなければなりません。例えば、あえて大きく作画してもらい、それを撮影さんに縮小してはめてもらって、絵の細部が潰れないようにするような作業も増えています。今はどの家庭でも大画面で観ることが前提になっていますし、今回は劇場での上映もありますし、大きい画面に耐えうる画作りが重要になってきていますね。
—— 声優の方々の演技に関しては、演出の方はどのように関わっているのですか?
原田 演出は、アフレコにも全部立ち会います。アフレコの現場は音響監督が仕切りますが、演出としては「こういう意図で作画している」とか、「こういう表情をしています」、「こういう意図でこんな動きをしています」という作画的な考えを音響監督に説明します。カットやシーンに関しては、安彦さんや今西さんがどこにこだわっているかを伝えるのですが、全部のカットの原画を細かく観ていたり、作画さんと直接話をしているのは演出だけなので、そういう部分では最終的に演出が付属説明をします。そういう意味では、最初から最後まで流れを見るのが演出の仕事ですね。色に関しても、背景に関しても最後に上がってきたものをチェックするのが演出の仕事です。
—— アフレコの様子はいかがでしたか?
原田 エドワウ役の池田秀一さんも、若い頃のシャアということを非常に意識されてこだわっておられて、「少しトーンを変えてやってみたい」と、御自分から録り直しをしたいとおっしゃられて、一度アフレコは終了していたのですが、再度収録をし直す位、強い思い入れをもって演じて下さいました。その他、やはりスタジオは『THE ORIGIN』という作品のせいか、緊張感がある感じではありました。
—— 原田さんご自身として、『THE ORIGIN』という作品に関わってみた感想はいかがですか?
原田 プレッシャーはもちろんあります。特に今回は、雲の上の存在だと思っていた安彦さんご自身から直接意向を聞かなければならないので。とは言え、これまでたくさんの作品に関わって来たということもあって、神経が図太くなっているので、緊張しすぎずやれているという感じはありますね。
—— では最後に、演出から見た、第2話の見所を教えてください。
原田 テアボロ・マスに引き取られて、エドワウ・マス、セイラ・マスという名前で、地球上で平和に暮らしていたところから事件が起こり、最終的に兄妹が別れることになる物語なのですが、その中で、だんだんと2人の環境も考え方も変わっていく様子が見所かと思います。また、メカ好きの方にはモビルスーツの開発秘話が描かれますし、そこに関わるランバ・ラルや黒い三連星のやりとりは、ガンダムファン的には楽しめると思います。リレーインタビュー連載、次回は第2話の主題歌を歌われた石田匠さんにご登場いただきます。