第15回
メカニカル総作画監督
鈴木 卓也
劇中で描かれるメカニカルに関する作画を統括するメカニカル総作画監督。手描きからCGに置き換わっても、アニメ的なメカ表現をするためには欠かせないメカ作画監督の仕事とはどのようなものか? 今回の関係者リレーインタビューは、本編中のメカ表現を一任されたメカ作画監督の鈴木卓也さんに、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)でのメカ表現のこだわりを伺った。
ファーストガンダに関しては、子供だったので、やはり戦闘シーンに夢中でしたね。その頃のアニメは、戦闘シーンは物語の後半に入るものがほとんどなのに対し、話数毎にずっと戦闘している時もあれば、まったく戦闘しないときもあって、その表現が子供ながらにリアルだなと感じていましたね。そんな感じで影響を受けていたので、『THE ORIGIN』に関しては「自分がやっていいのかな?」という思いもありますし、責任重大だなとも思っています。
それから、CGで困るのは止め絵ですね。ガンタンク初期型も止め絵があるんですが、例えば並んで止めたりするとすごく機械的になってしまったりするんですよね。手描きでは出せる止め絵での個性が出せないのが大変です。動いている時はいいんですが、止めた時にどう見せるかに苦労しますね。
また、ラフ原画を仕上げたあとに、動きをもうちょっと膨らませてほしいというのはありました。ガンタンク初期型がダッシュするシーンがそれですね。当初、自分ではガンタンク初期型はものすごく大きくて、凄いエンジンが搭載されているけど相当動かなくて、スピードも出ないと思っていたんです。だから、ちょっと地味目に動かしたんですが、もうちょっと速くして欲しい、動きを膨らませて欲しいと演出江上(潔)さんの方から言われました。
また、デザイナーさんがこだわった細かいギミックなどの設定も、より詳細に動かして見せることができるのもCG表現の良さだと思っています。手描きのアニメだと、そうしたギミックは見せるのが大変だったので、簡略化されることが多かったんですが、CGはじっくり見せることができますからね。
—— 『THE ORIGIN』にはどのような経緯で参加することになったのでしょうか?
鈴木 それまではサンライズが制作していた『革命機ヴァルヴレイヴ』(以下、『ヴァルヴレイヴ』)という作品に関わっていたんですが、そちらの仕事がひと段落ついた時に、番組プロデューサーの池谷(浩臣)さんから、「『THE ORIGIN』のメカ作画監督をやらないか」というお声がけをいただきました。それ以前からも何となくお誘いがあったのですが、『THE ORIGIN』は大きなタイトルなので自分は観る側として楽しみたかったというのもあり、何度かお誘いをお断りしていたんです。でも、ちょうど仕事の切れ目というタイミングだったということもあって断る理由も無かったので、最終的には引き受けることにしました。
—— 参加が決まった当初から、ガンタンク初期型やモビルワーカーをはじめとするメカをCGで描かくということは決まっていたのですか?
鈴木 最初にお誘いを受けた頃は聞いていなかったのですが、その後池谷さんからお話を伺った時に「どうやらメカはCGになるらしい」と聞きました。『ヴァルヴレイヴ』でも、CGで描かれるメカの動きを作るというメカ作画監督をしていたので、同じような仕事ならばやってみようかと思ったというのも引き受けた理由です。手描きじゃないから楽できるかなという甘い考えがあったのも事実ですね(笑)。
—— 『THE ORIGIN』に関わる前の段階では、TVシリーズの『機動戦士ガンダム』や安彦良和さんの作品には、どのように触れられていましたか?
鈴木 小学校から中学校の頃に『機動戦士ガンダム』(ファーストガンダム)を観ていましたし、それ以来安彦さんのキャラは大好きだったので、『アリオン』なんかのマンガも読んだり、絵を模写したりしていましたね。ファーストガンダに関しては、子供だったので、やはり戦闘シーンに夢中でしたね。その頃のアニメは、戦闘シーンは物語の後半に入るものがほとんどなのに対し、話数毎にずっと戦闘している時もあれば、まったく戦闘しないときもあって、その表現が子供ながらにリアルだなと感じていましたね。そんな感じで影響を受けていたので、『THE ORIGIN』に関しては「自分がやっていいのかな?」という思いもありますし、責任重大だなとも思っています。
—— CGのメカを動かすというメカ作画監督の仕事は、いつ頃からやられているのですか?
鈴木 『ヴァルヴレイヴ』が最初ですね。それまでは、手描きのメカやキャラクターの作画監督をやっていました。仕事内容としては、実はCGも手描きのアニメも基本は同じで、どんな風に動かしたいか絵を描いていくだけなんです。CGで動かすとは言っても、CGでどのように表現されるかはあまり考えずに、ラフ原画のようなものを描いて動きのガイドを作っているという感じです。実際の映像になる際には、CG制作スタッフが動かすんですが、アニメとして見映えのする動きを作ることができないので、メカ作画監督が実際に絵を描くことによって、CGの作業を補うというものですね。
—— ディテールなどではなく、あくまで動きを優先しているというイメージですか?
鈴木 そうですね。ディテールはCGに入れ込まれているので、僕が描くラフ原画で細かく描き込んでも意味がないので、シルエットなどの形が判るように描いています。腕の向きやひねる角度などは「こんな感じになります」と補足を入れるという感じですね。絵としてはかなり簡略化していますが、普通のアニメと同じように描いています。
—— メカがCGになったからこその、メカ作画監督にとっての制約みたいなものがあったりはしないのでしょうか?
鈴木 CG制作側が、こちらの描いた絵に合わせて形状を変えてくれたりするので、そうした制限はないですね。ポーズに合わせて腕や胴を伸ばしたり、見映えがいいように手前に伸ばした腕を大きくするなど、絵的に良く見える工夫をしてくれるので、こちらは何の制限もなく作業ができています。
—— では、逆にメカがCGになるからこそ苦労するところはありますか?
鈴木 通常の手描きのアニメではできない、細かいところを動かすという部分で苦労するところはあります。とは言え、例えばガンタンク初期型のキャタピラの動きなどを全部ラフ原画で描いても意味がないので、「こんな感じでうねりながら動きます」という指針を作成して、それを参考にCG制作の方にお任せしていますね。あとはモデリング的な制約をどう解消するかという苦労はあります。ポーズを付けるのに動かすと、どうしても干渉してしまう箇所が出来てしまうので、そこをうまく誤魔化して欲しいというようなことを原画に書いたりするようなこともありました。ちなみに、ガンタンク初期型は動き辛い形状なので、CGで動かす際にはちょっと胴を長くしたりするなどバランスをとってもらっています。それから、CGで困るのは止め絵ですね。ガンタンク初期型も止め絵があるんですが、例えば並んで止めたりするとすごく機械的になってしまったりするんですよね。手描きでは出せる止め絵での個性が出せないのが大変です。動いている時はいいんですが、止めた時にどう見せるかに苦労しますね。
—— 実際に苦労されたシーンやカットはどこですか?
鈴木 第1話だと、ガンタンク初期型同士の戦闘シーンの後半にあるスローモーションでしょうか。ここは、監督の今西(隆志)さんが絵コンテを描かれているのですが、どれくらいスローなのかをイメージするのが難しくて。スローになるとスピードで誤魔化していた、見えなくて済む部分が見えてくるので、ラフ原画の枚数も増えますし、CGではどんな感じに仕上がるのかも想像しなくちゃならない難しさもありました。シーン全体の流れを、動きとして読み解くのにも時間がかかっているので、大変だったという印象は強いですね。また、ラフ原画を仕上げたあとに、動きをもうちょっと膨らませてほしいというのはありました。ガンタンク初期型がダッシュするシーンがそれですね。当初、自分ではガンタンク初期型はものすごく大きくて、凄いエンジンが搭載されているけど相当動かなくて、スピードも出ないと思っていたんです。だから、ちょっと地味目に動かしたんですが、もうちょっと速くして欲しい、動きを膨らませて欲しいと演出江上(潔)さんの方から言われました。
—— ラフ原画を仕上げた時点で、お仕事は終わりになるのですか?
鈴木 ラフ原画を上げた後は、大まかな動きをするCGの動画を見てチェックするという作業があります。そこで、より細かく「ここを速く」とか「ここをもうちょっと遅く」、「引きや溜めを入れて欲しい」という微調整をします。その作業が長いですね。何度も指示をして直してもらうので、作業をしている方には申し訳ないと思いますが、そこはこだわってチェックをいれていきます。
—— ガンタンク初期型は破壊描写も見所でしたが、そこにもこだわりがありますか?
鈴木 破壊に関しては、以前関わっていた『ヴァルヴレイヴ』では、新たに壊れた部分をモデリングしなくちゃならないので、なるべく壊さないようにするという苦労がありました。だから、『THE ORIGIN』では当初は破壊描写だけ作画するのかと思っていたのですが、コンピュータによる破壊シミュレーションというのがあって、それを駆使することで破片などもCGで作れるということで、そうした部分は気にせずに作業させてもらいましたね。また、デザイナーさんがこだわった細かいギミックなどの設定も、より詳細に動かして見せることができるのもCG表現の良さだと思っています。手描きのアニメだと、そうしたギミックは見せるのが大変だったので、簡略化されることが多かったんですが、CGはじっくり見せることができますからね。
—— メカ作画監督作業にあたって、安彦良和総監督、今西監督からオーダーのようなものはありましたか?
鈴木 細かい部分での指示はありましたが、わりと任せていただいているので、大きなオーダーは特になかったです。ただ、今回は安彦さんと今西さんがパート毎に絵コンテを描かれていて、今西さんのコンテを安彦さんの描く感じに近づけるような動きを模索しなくちゃならないですし、今西さんの描く細かくて濃い部分もちゃんと反映させなくちゃならないという部分で、実作業で悩む部分は大きかったです。
—— 第1話ではガンタンク初期型がメインでしたが、第2話ではモビルワーカーによる戦闘が描かれますね。やはり、見せ方や考え方は大きくかわりましたか?
鈴木 これまでのメカ作画監督としての流れから言えば、モビルワーカーは人型だから動かし易いというのはあります。ただ、設定ではかなり足が短いのですが、ラフ原画ではちょっと長めに描いてしまっているので、CG制作担当が苦労したのではないかと思います。人型だと、手足があるので演技が付けやすいですね。シーン自体はあまり多くないんですが、けっこういい感じに仕上がったと思います。
—— モビルワーカー同士の戦闘では、苦労されたところはありますか?
鈴木 コックピットが外に付いているので、キャラクターの作画との兼ね合いがなかなか難しかったですね。メカだけでなく、ランバ・ラルやマッシュの作画も担当しているのですがコックピットが狭くて演技が付けづらかったです。あとは、ケーブル類の表現ですね。設定ではたくさんのケーブルを引きずって戦うことになるわけです。動かすとなると、やはりケーブルは邪魔ですし、CGでちゃんと動かせるのかという心配もありましたね。
—— モビルワーカーという人型兵器同士の戦闘シーンが始めて描かれるわけですが、そこでのこだわりのポイントはどこですか?
鈴木 大きい機体ですので、それなりの重さを表現しようとしました。ラフ原画では動きが軽くならないようにしていたんですが、実際に動くと軽く見える部分もあったので、そこにはチェックを入れたりしています。巨大なハサミのようなアームを付けているんですが、挟んだりせずに叩き付け合うような戦いをしているので、そのあたりはモビルワーカーも初期型でまだパイロットも不慣れな状態で戦っているのかな?というイメージで描いています。
—— それでは最後に、第2話の見所を教えてください。
鈴木 ガンダムファンがよく知るキャスバルとアルテイシアの別れのシーンがありますので、やはりそこは必見かと。さらに、モビルスーツの原点であるモビルワーカーの開発に関わる描写もあるので、メカの面でもかなり濃くなっていますので、そこを楽しみにしてください。予告編でも戦闘シーンは出ていますが、さらに手を加えることで完成度が高まっているので、実際の完成版映像をぜひ見てもらえればと思います。