宇宙世紀事始め IV その2
「RX-78開発」
「RX-78開発」
U.C.0077の歳末、テム・レイの姿は地球連邦軍総司令部の所在するブラジリアにあった。
地球連邦軍統合参謀本部のトップ、ゴップ大将に呼び出されたのだ。
極秘ルートで入手した映像の検証と評価のためである。
その映像には、「モビルスーツ」と名付けられた機動兵器の飛行試験と実弾射撃試験の様子が収められていた。
同兵器開発の技術顧問は、トレノフ・Y・ミノフスキー博士。
テム・レイの恩師であり、後世の歴史を劇的に改変する因を作ったとさえ言われる「ミノフスキー粒子」の発見者である。
そのミノフスキー博士が、今、ジオン自治共和国から連邦への亡命を望み、映像を秘かに連邦軍へ送ってきたという。
その映像は、連邦政府への警告でもあった。
ミノフスキー粒子を活用した小型融合炉開発や、ミノフスキー粒子散布による通信や索敵及び誘導兵器の阻害、ミノフスキー・クラフト開発など、革新的な技術を生むことになる基礎理論の提唱者にして、ミノフスキー粒子の発見者であった博士は、自身の理論の証明のため、ジオンの兵器開発に協力した。
しかし、その結果、産み出されたのは『怪物』であった。
宇宙世紀のこの時代、連邦軍とジオン軍の総力は、圧倒的に連邦軍が上回っていた。
しかし、この機動兵器が戦況をジオン側に著しく傾ける可能性を、博士は正確に予見してしまったのである。
かつて博士が開発初期にギレン・ザビに告げたように「戦闘の主役を戦艦や精密誘導兵器から奪い取る」恐るべき怪物『サイクロプス』がこの世に解き放たれようとしていた。
過ぎた武力は、軋轢と圧政と破壊を産む。
ジオンがその武力を背景に、独立のみでなく、地球圏の征服を目論む可能性も皆無ではなかった。
デギン・ソド・ザビであれば、スペースノイドの主権の確立=地球連邦からの独立、それのみで要求を留める可能性があった。彼には自我をコントロールする知性があったからだ。
しかし、ギレンは貪欲で、怜悧で、酷薄であった。
理論と技術の証明が成った以上、連邦にも自身の技術を提供し、ジオンの野心を掣肘すべきだと博士は結論した。
しかし、博士は、その望みを果たすことなく、命を落とした。
その現場を、辛くも目撃することになったのが、テム・レイだった。
ブラジリアで、「MS-04」と名付けられた機動兵器の映像を見た瞬間に、テムは、ミノフスキー博士が長年夢想していた「モビルスーツ」という機動兵器が遂に完成したことを知った。
テム自身も、ミノフスキー博士の弟子として、アナハイム・エレクトロニクス社に籍を置き、連邦軍から依頼された機動兵器の開発に着手。RCX-76 ガンキャノン最初期型を製作、ロールアウト1号機を完成させた。
しかし、その機体は連邦軍の要請もあり、MBTの枠内で開発されたものだった。
実戦配備用のRCX-76-01A 機動試験型とRCX-76-01B 火力試験型の開発は、月のフォン・ブラウン工場で継承されて行われたが、テムは関与しなかった。それは、自身が開発したRCX-76 に満足を覚えられなかったせいもあったのだろう。
また、連邦軍は、ジオンが開発したMS-04 のように、宇宙空間での機動性、戦艦をも撃沈しうる火力や、汎用性など、考慮に入れるべき点を重要視していなかった。
そして、それは致命的な結果をもたらすことになった。
U.C.0078、月のスミス海において、MS-04 の後継機であるMS-05 と交戦した連邦軍鉄騎兵中隊のRCX-76-02 は完敗、全滅したのだ。
だが、RCX-76の欠陥を熟知していたテムは、その前年のU.C.0077から、ゴップ大将の許可を得て、サイド7の極秘工廠で新たな機動兵器の開発に既に着手していた。
表向きは、サイド7のスペースコロニー開発の技術者としての身分であり、軍属でもない。
息子のアムロにも、自身が兵器開発をしていることは知らせていない。
だが、その新たな機動兵器こそが、ジオンの開発したモビルスーツに匹敵し、さらには凌駕する性能を有するものになると確信していた。
スミス海の惨劇を機に、テムはアナハイム・エレクトロニクス社の重役にも働きかけてRX-78開発を前進させていく。
それは、志半ばで落命したミノフスキー博士へのテムなりの贖罪でもあったかもしれない。
U.C.0079——。
テム・レイが開発したRX-78 ガンダムが、歴史の舞台に登場するのは、世に云う「一年戦争」開戦から8カ月あまりののちのことである。
地球連邦軍統合参謀本部のトップ、ゴップ大将に呼び出されたのだ。
極秘ルートで入手した映像の検証と評価のためである。
その映像には、「モビルスーツ」と名付けられた機動兵器の飛行試験と実弾射撃試験の様子が収められていた。
同兵器開発の技術顧問は、トレノフ・Y・ミノフスキー博士。
テム・レイの恩師であり、後世の歴史を劇的に改変する因を作ったとさえ言われる「ミノフスキー粒子」の発見者である。
そのミノフスキー博士が、今、ジオン自治共和国から連邦への亡命を望み、映像を秘かに連邦軍へ送ってきたという。
その映像は、連邦政府への警告でもあった。
ミノフスキー粒子を活用した小型融合炉開発や、ミノフスキー粒子散布による通信や索敵及び誘導兵器の阻害、ミノフスキー・クラフト開発など、革新的な技術を生むことになる基礎理論の提唱者にして、ミノフスキー粒子の発見者であった博士は、自身の理論の証明のため、ジオンの兵器開発に協力した。
しかし、その結果、産み出されたのは『怪物』であった。
宇宙世紀のこの時代、連邦軍とジオン軍の総力は、圧倒的に連邦軍が上回っていた。
しかし、この機動兵器が戦況をジオン側に著しく傾ける可能性を、博士は正確に予見してしまったのである。
かつて博士が開発初期にギレン・ザビに告げたように「戦闘の主役を戦艦や精密誘導兵器から奪い取る」恐るべき怪物『サイクロプス』がこの世に解き放たれようとしていた。
過ぎた武力は、軋轢と圧政と破壊を産む。
ジオンがその武力を背景に、独立のみでなく、地球圏の征服を目論む可能性も皆無ではなかった。
デギン・ソド・ザビであれば、スペースノイドの主権の確立=地球連邦からの独立、それのみで要求を留める可能性があった。彼には自我をコントロールする知性があったからだ。
しかし、ギレンは貪欲で、怜悧で、酷薄であった。
理論と技術の証明が成った以上、連邦にも自身の技術を提供し、ジオンの野心を掣肘すべきだと博士は結論した。
しかし、博士は、その望みを果たすことなく、命を落とした。
その現場を、辛くも目撃することになったのが、テム・レイだった。
ブラジリアで、「MS-04」と名付けられた機動兵器の映像を見た瞬間に、テムは、ミノフスキー博士が長年夢想していた「モビルスーツ」という機動兵器が遂に完成したことを知った。
テム自身も、ミノフスキー博士の弟子として、アナハイム・エレクトロニクス社に籍を置き、連邦軍から依頼された機動兵器の開発に着手。RCX-76 ガンキャノン最初期型を製作、ロールアウト1号機を完成させた。
しかし、その機体は連邦軍の要請もあり、MBTの枠内で開発されたものだった。
実戦配備用のRCX-76-01A 機動試験型とRCX-76-01B 火力試験型の開発は、月のフォン・ブラウン工場で継承されて行われたが、テムは関与しなかった。それは、自身が開発したRCX-76 に満足を覚えられなかったせいもあったのだろう。
また、連邦軍は、ジオンが開発したMS-04 のように、宇宙空間での機動性、戦艦をも撃沈しうる火力や、汎用性など、考慮に入れるべき点を重要視していなかった。
そして、それは致命的な結果をもたらすことになった。
U.C.0078、月のスミス海において、MS-04 の後継機であるMS-05 と交戦した連邦軍鉄騎兵中隊のRCX-76-02 は完敗、全滅したのだ。
だが、RCX-76の欠陥を熟知していたテムは、その前年のU.C.0077から、ゴップ大将の許可を得て、サイド7の極秘工廠で新たな機動兵器の開発に既に着手していた。
表向きは、サイド7のスペースコロニー開発の技術者としての身分であり、軍属でもない。
息子のアムロにも、自身が兵器開発をしていることは知らせていない。
だが、その新たな機動兵器こそが、ジオンの開発したモビルスーツに匹敵し、さらには凌駕する性能を有するものになると確信していた。
スミス海の惨劇を機に、テムはアナハイム・エレクトロニクス社の重役にも働きかけてRX-78開発を前進させていく。
それは、志半ばで落命したミノフスキー博士へのテムなりの贖罪でもあったかもしれない。
U.C.0079——。
テム・レイが開発したRX-78 ガンダムが、歴史の舞台に登場するのは、世に云う「一年戦争」開戦から8カ月あまりののちのことである。