宇宙世紀事始め IV その1
「ジャブロー基地建設」
「ジャブロー基地建設」
U.C.0077——。
サイド3からの直行便が南米のスペースポートに到着した。
地球行き702便に搭乗していたシャア・アズナブルは、「暁の蜂起」事件の責任を負った形でジオン自治共和国国防軍士官学校を除隊すると、地球に降りることを選択したのだ。
スペースポートからアマゾン川流域に位置するマナウス空港へ飛行機で移動する。
マナウスは旧世紀の時代から、大規模な工場誘致や農業で発展してきた大都市だ。
そのマナウスから、アマゾン川をボートで移動する。
目的地は、地球連邦軍の基地建設で沸くジャブロー。テーブルマウンテンを頂くギアナ高地のお膝元だ。
基地建設は鬱蒼たる熱帯雨林のジャングルが茂る地上と地下の広域で行われ、シャアが参加したのは地上施設の建設現場だった。
人手不足の折、シャアはすぐにモビルワーカー土木重機型の操縦士の仕事に就いた。
士官学校で習得したモビルワーカーの操縦技能資格が役に立った形だ。
ジャブロー基地建設に関わるアマゾン川周辺のインフラ整備事業は、河川交通網の整備や道路・橋梁建設のほか、ガス・水道・電気・通信等の施設、建設従事者を受け入れた住居、病院、ゴミ処理施設ほか、関連事業の事業所に加え、大規模な消費地形成もあり、商業地区と歓楽街の発展も促した。
巨大な基地城下町が誕生しつつあった。
人口は増加した。仕事を求めて南米以外の世界各地からも流入してきた労働者以外に、その収益を利用・搾取しようとする裏社会の有象無象の輩の跋扈も呼び込むことになったからだ。
シャアは、仕事を始めてしばらくすると、時折休暇を取っては、周辺の川を遡るボートを雇い、密かに地下基地建設の状況も把握しようと試みた。連邦軍の機密に接触することはさすがに思い通りにはいかなかったが、一方で、現地の人々の暮らしを知る人物を介して、古くから居住する人々と接触することも怠らなかった。
何世紀も自然と共存してきたジャングルの民は、ジャブロー基地建設を自然の破壊と捉え、忌避していた。
それは、地球圏を強引にひとつにまとめて治めようとしてきた連邦政府に対する、否定の心情にも連なっているように思えた。
この出会いが、のちに役立つかもしれない。それはおぼろげではない、シャアの確信だった。
そして、もうひとつの出会いが、シャアを待っていた。
マナウスにならって、ジャブローの近くの街にもカジノが作られ、大変な活況を呈していたが、そこで、不思議な力を使ってルーレットの先読みをする少女と知り合ったのだ。
彼女の名前は、ララァ・スン。
インド出身のララァは、ルーレットを仕切るディーラーが出そうする目を正確に把握することが出来た。ディーラーが優秀であればあるほど、その目は正確なのだが、その目を察知してしまうのだ。
シャアが、工事の現場監督や同僚と共にジャブロー近くの街に新しくできたカジノを訪れたとき、カジノ荒らしのギャンブラーが連れていた少女がララァだった。
ルーレットを回すディーラーが出す目を予見したララァは、ギャンブラーの背中に密かにその数字を書く。そこにギャンブラーは迷わずベットした。
ルーレットのホイールに落ちるボールは、そのベット通りだった。
ギャンブラーは、ララァの力を借りたイカサマで大金をせしめていたのだ。
しかし、なにかカラクリがあると気付いたカジノのマネージャーはディーラーを交代させた。未熟な女ディーラーの出す目は、ある意味デタラメだった。
ララァに、その目を読み取ることは難しい。ギャンブラーがベットした目は、次々に外れていった。
シャアが、ララァに声をかけたのは、ギャンブラーが大損した翌日だ。
警戒するララァだったが、次第にうち解けた会話が生まれた。
だが、ララァの力にシャアが気付いたように、ギャンブラーが荒稼ぎをしたマナウスのマフィアのボスも、彼女の力を利用しようとララァを探していた。
ジャブローの工事現場にインド人の少女がいることを知ったマフィア達が、大挙して襲撃してきた。
シャアは、ムンバイの家族に仕送りをしているララァが、マフィアのボスに捕まるのを阻止した。彼女に身の上に、常らしからぬ同情をしただけではないのだろう。意に沿わぬ生き方を強いようとする、他人、その力の行使に対する怒りが起点だったかも知れない。スペースノイドに服従を強いる連邦政府のように。母を見殺しにしたザビ家のように。
ジャブロー基地に関わる出会いを経て、ララァを連れ、シャアは星の世界に戻った。
その星の世界に住む者達、ジオンの中心者達は、戦争への準備を着々と進めていた。
地球連邦軍統合参謀本部の議長であるゴップ大将は、ジャブロー基地建設を決断した連邦軍の制服組のトップである。
ジオンの脅威は、月面スミス海での機動兵器同士の戦闘における、連邦軍の完敗という形で表面化した。
さらに、ジオンは公国を名乗り、連邦からの独立を宣言した。
U.C.0078——。
ゴップは、完成したジャブロー基地への総司令部移転を決定する。
宇宙世紀の戦乱は、間近に迫っていた。
サイド3からの直行便が南米のスペースポートに到着した。
地球行き702便に搭乗していたシャア・アズナブルは、「暁の蜂起」事件の責任を負った形でジオン自治共和国国防軍士官学校を除隊すると、地球に降りることを選択したのだ。
スペースポートからアマゾン川流域に位置するマナウス空港へ飛行機で移動する。
マナウスは旧世紀の時代から、大規模な工場誘致や農業で発展してきた大都市だ。
そのマナウスから、アマゾン川をボートで移動する。
目的地は、地球連邦軍の基地建設で沸くジャブロー。テーブルマウンテンを頂くギアナ高地のお膝元だ。
基地建設は鬱蒼たる熱帯雨林のジャングルが茂る地上と地下の広域で行われ、シャアが参加したのは地上施設の建設現場だった。
人手不足の折、シャアはすぐにモビルワーカー土木重機型の操縦士の仕事に就いた。
士官学校で習得したモビルワーカーの操縦技能資格が役に立った形だ。
ジャブロー基地建設に関わるアマゾン川周辺のインフラ整備事業は、河川交通網の整備や道路・橋梁建設のほか、ガス・水道・電気・通信等の施設、建設従事者を受け入れた住居、病院、ゴミ処理施設ほか、関連事業の事業所に加え、大規模な消費地形成もあり、商業地区と歓楽街の発展も促した。
巨大な基地城下町が誕生しつつあった。
人口は増加した。仕事を求めて南米以外の世界各地からも流入してきた労働者以外に、その収益を利用・搾取しようとする裏社会の有象無象の輩の跋扈も呼び込むことになったからだ。
シャアは、仕事を始めてしばらくすると、時折休暇を取っては、周辺の川を遡るボートを雇い、密かに地下基地建設の状況も把握しようと試みた。連邦軍の機密に接触することはさすがに思い通りにはいかなかったが、一方で、現地の人々の暮らしを知る人物を介して、古くから居住する人々と接触することも怠らなかった。
何世紀も自然と共存してきたジャングルの民は、ジャブロー基地建設を自然の破壊と捉え、忌避していた。
それは、地球圏を強引にひとつにまとめて治めようとしてきた連邦政府に対する、否定の心情にも連なっているように思えた。
この出会いが、のちに役立つかもしれない。それはおぼろげではない、シャアの確信だった。
そして、もうひとつの出会いが、シャアを待っていた。
マナウスにならって、ジャブローの近くの街にもカジノが作られ、大変な活況を呈していたが、そこで、不思議な力を使ってルーレットの先読みをする少女と知り合ったのだ。
彼女の名前は、ララァ・スン。
インド出身のララァは、ルーレットを仕切るディーラーが出そうする目を正確に把握することが出来た。ディーラーが優秀であればあるほど、その目は正確なのだが、その目を察知してしまうのだ。
シャアが、工事の現場監督や同僚と共にジャブロー近くの街に新しくできたカジノを訪れたとき、カジノ荒らしのギャンブラーが連れていた少女がララァだった。
ルーレットを回すディーラーが出す目を予見したララァは、ギャンブラーの背中に密かにその数字を書く。そこにギャンブラーは迷わずベットした。
ルーレットのホイールに落ちるボールは、そのベット通りだった。
ギャンブラーは、ララァの力を借りたイカサマで大金をせしめていたのだ。
しかし、なにかカラクリがあると気付いたカジノのマネージャーはディーラーを交代させた。未熟な女ディーラーの出す目は、ある意味デタラメだった。
ララァに、その目を読み取ることは難しい。ギャンブラーがベットした目は、次々に外れていった。
シャアが、ララァに声をかけたのは、ギャンブラーが大損した翌日だ。
警戒するララァだったが、次第にうち解けた会話が生まれた。
だが、ララァの力にシャアが気付いたように、ギャンブラーが荒稼ぎをしたマナウスのマフィアのボスも、彼女の力を利用しようとララァを探していた。
ジャブローの工事現場にインド人の少女がいることを知ったマフィア達が、大挙して襲撃してきた。
シャアは、ムンバイの家族に仕送りをしているララァが、マフィアのボスに捕まるのを阻止した。彼女に身の上に、常らしからぬ同情をしただけではないのだろう。意に沿わぬ生き方を強いようとする、他人、その力の行使に対する怒りが起点だったかも知れない。スペースノイドに服従を強いる連邦政府のように。母を見殺しにしたザビ家のように。
ジャブロー基地に関わる出会いを経て、ララァを連れ、シャアは星の世界に戻った。
その星の世界に住む者達、ジオンの中心者達は、戦争への準備を着々と進めていた。
地球連邦軍統合参謀本部の議長であるゴップ大将は、ジャブロー基地建設を決断した連邦軍の制服組のトップである。
ジオンの脅威は、月面スミス海での機動兵器同士の戦闘における、連邦軍の完敗という形で表面化した。
さらに、ジオンは公国を名乗り、連邦からの独立を宣言した。
U.C.0078——。
ゴップは、完成したジャブロー基地への総司令部移転を決定する。
宇宙世紀の戦乱は、間近に迫っていた。