第31回
主題歌
森口 博子
『機動戦士Zガンダム』、『機動戦士ガンダムF91』、『SDガンダム G GENERATION』と、ガンダム作品の主題歌を数多く歌ってきた、歌手の森口博子さん。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』の主題歌『宇宙の彼方で』を担当し、『機動戦士ガンダムF91』以来、劇場で上映されるガンダム作品の主題歌を25年ぶりに歌うこととなった。デビュー曲からガンダム作品と関わり、ご自身にとっても思い入れの深いガンダム作品の主題歌とアニソンについて、新曲へのこだわりを中心に、その思いの丈を語ってもらった。
ガンダムに出会っていなければ今の歌手森口博子はいません。
昨年デビュー30周年を迎えましたが、ファンのみなさんと共に歩んでこられたことが魂震えるほど、幸せです。
リレーインタビュー次回はキシリア・ザビ役の渡辺明乃さんに登場いただきます。
—— 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)の主題歌を担当されるということは、やはりホームに帰ってきたような感覚がありますか?
森口 もちろん、「ただいま!」という思いです! 劇場で上映されるガンダムの主題歌は『機動戦士ガンダムF91』以来25年ぶりですから、本当に幸せですね。
—— 主題歌を担当されることが公式に発表されたのは6月12日に開催された「ガンダムLIVE EXPO」の会場でしたが、森口さんはいつ頃話を聞かれましたか?
森口 4月に行われた「スーパーロボット魂」というイベントの最中でした。もう少しで出番が来るというタイミングで、事務所の部長から「とってもいいお話があるので、終わってから教える」と言われたんです。「そこまで言われたら、気になって逆に聞かないと歌えないので(笑)今、聞きたいです」って言ってしまったんですね。その内容というのが、『THE ORIGIN』の主題歌が決まったということだったんです。あまりの嬉しさに楽屋の扉の前で泣いてしまいました。やっぱり、歌う前に聞くんじゃなかったと思いましたね(笑)。多分、部長も私が喜ぶのを知っていて、伝えるのをガマンできなかったのではないかと。
—— 主題歌が決まったと聞いた時のお気持ちはいかがでしたか?
森口 念願が叶った喜びでいっぱいでした。私は、10代でデビュー曲の『機動戦士Zガンダム』の主題歌を、20代で『機動戦士ガンダムF91』の主題歌を、そして30代でゲームの『SDガンダム G GENERATION SPIRITS』の主題歌を担当させていただき、40代でも「絶対に歌う!」って強く願っていたんです。そう思っていたことが、実現できた嬉しさが強かったですね。ネットでもファンの方々の「もう一度森口博子に」という声を見ていましたので、私たちの夢が叶いました。
—— 『THE ORIGIN』の本編は観られたそうですが、作品にはどんな感想を持たれましたか?
森口 運命に翻弄されるシャアとセイラの2人が、カルマを背負って生きていかなければならないわけで、その中での人間ドラマがきちんと描かれていて、色々と考えさせられました。人の影の部分には理由があると思うんですが、どうして変わってしまったのかを紐解いていく部分は興味深いですね。そういう意味では社会派の作品だと思いました。ガンダムファンの方にとっては、歴史として刻まれたテレビ版の『機動戦士ガンダム』があって、『THE ORIGIN』は、その前の状況を描くことで、作品のバトンを繋いでいるわけですよね。そんな作品を劇場で観ると想像しただけで泣けてきちゃいますね。
—— ガンダム作品との関わりに関しては、どんな思いを持っていましたか?
森口 人生を変えてくれた運命の作品です。何世代にも渡って、ファンの方々に愛され続ける歴史あるガンダムの主題歌を歌わせて頂けるという事は、ボーカリストとしてとても誇らしい事です!! 4歳から歌手になりたくて、いろいろオーディションを受けては落ちまくりの中、やっと最後に手を差し伸べてくれたのがガンダムだったんです。でもデビュー直後にリストラ宣告を受けるんです。なんでもやりますから返さないでくださいとお願いして、バラエティーのお仕事を「歌につながる」と信じてやらせていただきました。そんな時に『機動戦士ガンダムF91』の主題歌のお話を頂き、『ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜』が初めてベストテンに入って、紅白歌合戦や全国ツアーにつながったんです。ガンダムに出会っていなければ今の歌手森口博子はいません。
昨年デビュー30周年を迎えましたが、ファンのみなさんと共に歩んでこられたことが魂震えるほど、幸せです。
—— 今回歌われる『宇宙の彼方で』を歌ってみた感想はいかがですか?
森口 森雪之丞さんの衝撃的な詩が刺さりました。映像が浮かぶ情景描写が素晴らしいです。人間の愚かさや平和への祈りについて考えさせられました。そして服部隆之先生の壮大で美しいメロディーが響きました。今回プロデューサーの方から「森口さんはガンダムの女神です。起こった出来事を達観したところで俯瞰で捉えるポジションで歌っていただければ」とオファーをいただき大変光栄でした。慈愛に満ちた大きな世界を表現するにあたり、この楽曲との距離感が非常に難しかったです。直接的な詩やショッキングな内容を嘆くだけでは伝わらないし、達観しすぎても届かないので。「これは繰り返してはいけないことだ」と強い祈りを込めて歌いました。
—— ずっとキャリアを重ねてきたからこそ歌うことができる曲ということですね。
森口 知れば知るほど辛い争いの現実を、年齢を重ねたからこそ伝えられるという部分はありますね。「こんなことがこの地球で起こっているんだ」ということを伝えるという意味では、すごい楽曲を頂いたなと思いますね。メッセージ性の強いものを任される責任という部分は、若い頃よりも深く感じましたね。
—— 曲としての仕上がりはいかがですか?
森口 コンセプトである「スペースオペラ」を存分に体感できます。服部先生の深くて荘厳なメロディーと「次の未来を祈りましょうか」と訴える森雪之丞さんの歌詞がすごく泣けました。これから争いが始まって、静かに星が瞬くように戦火が上がるわけですよね。そういう戦争と静けさとの対比が込められていて恐ろしさともの悲しさを感じます。歌詞と曲が見事に融合した世界観にグッときました。そして、ガンダムファンにはたまらない楽曲になっていると思います。
—— レコーディングの様子はいかがでしたか?
森口 大きな世界観を表現するのに今までにないボーカルアプローチに挑戦していて、かなりプレッシャーでした。でも森雪之丞さんや服部先生に“魂の歌声”が聴こえたと言って頂いた事が心強かったです!! トラックダウンも(様々な音源をまとめてひとつにする事)最後の最後までこだわったという印象ですね。「あそこの音をもう少し上げたい」、「ここを調整したい」と服部先生が何度も聞いては手を入れてというのを繰り返していました。本当にキリがないと言いつつも、ほんのわずかな音で雰囲気も変わるので。緊張感や厚みが細部までゴージャスに仕上がっていると感じました。
—— レコーディングには総監督の安彦良和さんもいらっしゃったそうですが、何かお話はされましたか?
森口 「アナログ時代の底力、パワーを感じました。流石ですね」と言って頂けました。安彦総監督やスタッフの皆さん、サンライズの関係者の方々など錚々たる方々に見守られてのレコーディングは、すごく緊張したのですが、そのひと言でホッとしました。
—— メッセージ性が強い曲なので、いろんな世代に聴いて欲しいですね。
森口 もちろんです。普遍的なテーマなので。東日本大震災の後に、被災地の小学校の体育館でガンダムのテーマソングを歌ったら、子供たちがすごく喜んでくれた事があったんです。
—— ガンダム作品は今や二世代にわたって親しまれていますからね。
森口 そうなんです。お父さんと一緒に観ている子がすごく多くて。自己紹介をして「私のこと知ってる?」って聞くと、「知ってる〜!」と声を出してくれて、「私はガンダムの曲でデビューしました」と話すと、「Zガンダム!」、「大好き!」と返してくれる。世代を超えて伝っているなって感じましたね。そんな大はしゃぎしている子も『F91』の主題歌の『ETERNAL WIND』のイントロが始まるとシーンとなって聴き入ってくれて、それだけで私は泣きそうになっちゃうのに、歌い終わると小さい手で一生懸命拍手してくれる。その後にクラス毎にまとめたお手紙をいただいて「ガンダムは大好きだったので、森口さんの綺麗な歌声で元気が出ました。今度は東京の子供たちを元気にしてください」とか「お仕事は大変だと思うけど、辛い時は私たちが応援していることを忘れないでください」と書いてあったんです。励ましに行ったのに、逆に励まされちゃったという事がありました。
—— いい話ですね。やはり、アニソンだからこそ伝わっていることがあると思いますか?
森口 あると思います。アニソンはアニメと曲の相乗効果で、どちらの世界観も響き合って届くという。そして、何と言っても言霊パワーに溢れています。そういう意味ではずっと、どんなに時代が変わっても深く心に残っていくものですからね。私自身も子供の頃に観た『キャンディ・キャンディ』のエンディングテーマを聞くと、涙が出てしまいますね。人生バイブルです。人格形成に聴いたアニソンは、感動を裏切りません。あの時の自分を純度100%で連れてきてくれて、当時の景色や匂いを思い出させてくれる。そういう力がアニソンにはあると思います。ノスタルジーだけではない明日への力を与えてくれる。そんなアニソンをたくさん歌わせて頂き、ボーカリスト冥利に尽きます!
—— 近年は、アニソンは海外のアニメファンからも高い支持を得ていますね。
森口 日本の文化として国境も世代も越えていますよね。海外の人も聴いていてくれていて、私を「ガンダムの曲を歌っている人」として声をかけてくれます。その他、アメリカのハードロックバンドのMr.Bigの元ギタリストのリッチー・コッツェンが『水の星へ愛をこめて』を『BLUE STAR』というタイトルでアルバム曲としてカバーしてくれているんです! そのライナーノーツにシンディ・ローパーが「私もガンダムが大好き、機会があれば自分もカバーしたかった」と書いてくれて。それくらい浸透しているのですよね。
—— 本当に国境を越えていますね。
森口 日本のアニメファンが育んでくれたおかげです。デビュー当時は、アニメの主題歌はそんなに大きく扱ってもらえなくて、同期のアイドルの子たちは店頭に専用ラックがあるのに、私のラックは当然無くて。シングルもアニメコーナーにあればラッキーな感じでした。アイドル雑誌でもすごく小さい記事で取り上げられる程度で、今みたいに大きくフィーチャーされる存在ではなかったんですよね。でも、アニメファンのみなさん、ガンダムファンのみなさんがずっと大切にしてくれたおかげでさらに、次の世代にもバトンが30年以上にわたって受け継がれているのですよね。そして、今でも新作が作り続けられている。そういう意味では、ガンダムには無限のパワーを感じますし、私もたくさん助けられました。
—— では、最後にガンダムの曲を歌うために森口さんが帰ってきたのを喜んでいるガンダムファンにメッセージをお願いします。
森口 今回、サンライズのスタッフの方々が、『THE ORIGIN』の次の主題歌を誰にするかという会議をした際に、私の名前を出していただき、満場一致だったという話を聞いた時にもまた泣けてきました。長い歴史の中で作品を作り続けて私の知らないところでも、そんな思いを寄せてくださっているということが、私の歌う力になっているのです。そして、それはガンダムを愛し、どんなに時代が変わっても楽曲を必要としてくれているファンのみなさんのブレない情熱的な思いがあってこそと、本当に感じています。みんなの人生と私の人生にガンダムが息づいています。全ての方々に感謝の気持ちでいっぱいです。今回、25年ぶりに劇場で上映されるガンダムの主題歌に帰ってくることができて私は宇宙一幸せものです。そして、アニソンは世代や国境を越えて、たくさんの人と繋がることができる。私にとっては生涯の財産であり、宝物なのです。その宝物をこれからもみんなと共有していけたらと思います。ぜひ、劇場のスクリーンそして、CDでも聴いてもらえると嬉しいですね。また50代になってもまた帰ってこれるよう、一音入魂で歌い続けます。リレーインタビュー次回はキシリア・ザビ役の渡辺明乃さんに登場いただきます。