第9回
メカニカルデザイン

明貴 美加


 関係者リレーインタビューは、『機動戦士ガンダムZZ』や『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』など、多数のガンダム作品で艦船からモビルスーツまで幅広くデザインを手掛けてきた明貴美加さんが登場。本作では、アバンで描かれる「ルウム戦役」で激戦を繰り広げる地球連邦軍、ジオン公国軍それぞれの艦船を中心にデザインを担当した明貴さんに、デザイン上の苦労や見所を語ってもらった。
——今回、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、『THE ORIGIN』)に関わることになった経緯を教えてください。
明貴 実作業に入るまえの年末近くに、今西(隆志)監督から、「忘年会に来ますか?」というメールをいただいたのがきっかけですね。そこで、直接お会いして言われたのが「ちょっとマゼランとかサラミスを描いてみない?」というものでした。もちろん、このタイミングでマゼランやサラミスを描くとなれば『THE ORIGIN』だなってすぐに判りました。話を聞いた当初は、「サラミスとマゼランくらいなのかな?」と思っていたんですが、実際はそれどころじゃないくらいのデザインを描くことになりました。
——お話がある以前からコミックスの方は読まれていたのですか?
明貴 ちゃんと読んでいました。印象としては、最初の『機動戦士ガンダム』からかなり変えているなと。基本は同じだけど、今回映像化される過去編に物語が移ってからは如実に違ってきたなと感じました。「こういうところまで踏み込むのか」と、今まで一度も描かれたことのない部分も掘り下げているので、一読者としては楽しみにしていましたし、やっぱり面白かったですよね。伝説の「三倍速いシャアの動き」を絵で見せていますからね。
——実際に作業に入る際には、どのような部分から手を付け始めたのですか?
明貴 とりあえず、最初に話をいただいたのがマゼランとサラミスだったので、コミックスで登場するコマの抜き出しから入りました。とは言え、安彦(良和)先生の描く艦船の姿を、デザインとしてバランス良くまとめるのには、苦労しました。今西監督にラフを出して、チェックバックをもらって形状を詰めて行くという形で作業を進めたので、最初は少し時間がかかりました。
 今西監督から、発注時に「『THE ORIGIN』の中に出てくる、君が見た戦艦のイメージを描いてみて」と言われたんです。その時点で、山根(公利)さんが描いた参考となるメカデザインがあったので、デザイン的にはそこから取り入れられるものは取り入れつつ、作業を進めました。
——発注時から3DCGで表現されるということは言われていたのですか?
明貴 聞いていました。だからこそ、どの辺りまで踏み込んでディテールを描いたらいいのかは悩みましたね。カメラが寄った状態では、どこのレベルまでやらなければならないのかは最初に聞いていなかったので。結局、作画で対応できる部分はそうするので、そうした条件も含めた艦船の雛形を作って欲しいという話にまとまって、より細かく詰めていった感じです。
——仕上がったデザインの印象だと、大河原邦男さんが『機動戦士ガンダム』で描いたマゼランやサラミスの形状を尊重して、現代風にアップデートしたように見えたのですが、そうした意識も強かったですか?
明貴 デザイン的な部分では、やはり大河原さんが描いた元デザインはリスペクトすべきです。今回、ムサイに関しては『THE ORIGIN』用に大河原さんが描き下ろした設定画があるのですが、マゼランとサラミスにはそういった類のものがなく恐らくTV版の設定を元にアップデートさせながら描かれています。各コマで描かれている情報を細かく拾いながら、ひとつにまとめて整合性を取っていくという形で作業を進めていきました。安彦先生からも「そういう細かい部分を拾った方がファンは喜ぶと思うよ」と仰っていたので、やっている方向は間違っていないかなと思いました。
 さらに今回は、連邦軍系の艦船だけではなく、ムサイも担当させてもらっているんです。ムサイに関しては『THE ORIGIN』のコミックスのスタート時に描かれた大河原さんのデザインを元にしつつ、連邦軍艦船同様に、劇中の情報を細かく洗い出しをして、デザインとして集約させていきました。
——さらに今回は、これまで未登場だったミサイルフリゲートのレパント級も新たにデザインされていますね。これは、どのような経緯で登場することになったのですか?
明貴 「連邦軍にはサラミスやマゼラン、コロンブスしか艦船がないのか?」、「もうちょっと違うシルエットや用途の艦船を入れたいよね」という話を今西監督としていて、そこで「ミサイル艦がいいんじゃないか?」という提案があったので設定しました。ミノフスキー粒子散布下では、レーダーが効かなくて、レーダー誘導式のミサイルがほぼ利かない状態になるわけです。つまりは、新しい戦場において時代遅れになっていく艦船なんです。名前も、サラミスやマゼランがそもそも世界地図で見た海の名前なので、大きな海戦があった場所からということで「レパント」になりました。
——そんなデザイン作業の中で苦労された部分はどこですか?
明貴 今回は、CGということもあって、サイズ的な部分では人間のモデルを置いて、「窓の大きさがこれだけだから、艦橋の高さは何メートルになるな」というような、定規で計ってスケール換算しながらの作業的なことを久しぶりにやりました。
 サイズに関しては、ムサイなどはザクを搭載するわけですけども、何体載せられるかというのを決め、そこから見直しをしています。『THE ORIGIN』ではMSの射出場所も変わってますからそれに応じた検証で簡単な図面を描いたり。
——明貴さんはこれまでも多数のガンダム作品に関わって来ていますが、『THE ORIGIN』に参加して、どんな印象を持たれましたか?
明貴 気持ち的な部分だと、かなり大変だなと思いました。片手間でできるような仕事ではないという。今西監督や安彦先生の要望にはなるべく応えるつもりでやっているのですが、『THE ORIGIN』の漫画原作の大きさ、重さというものがあって、あれを映像で作るとなると、相当な覚悟が必要になるわけです。だから、そんなに気軽にやれるものではなかったし、実際にもいろいろと大変でした。
——実際に動いている映像を観た感想を聞かせてください。
明貴 一生懸命デザインしたマゼランやサラミスが、シャア専用ザクに派手にぶっ壊されて、嬉しかったですね(笑)。あの破壊シーンは大変だったと聞いています。板野一郎さんが描かれたコンテでは、ノズルのところにミサイルを撃ち込んで、内部から吹き飛ぶシーンがあるんですが、内側からバラバラになるようにCGで作り込まなければならないので、設定画にはない隔壁などの内部構造を、モデリングされた方がその場合わせで苦労して作ったと聞きました。その苦労の甲斐があって、序盤のいい見せ場になっていますね。
——あの破壊シーンを見せられると、CGの見せ方も素晴らしいと思いますね。
明貴 そうですね。ああいう見せ方によって、『機動戦士ガンダム』の見え方が今風にアップデートされているように見えますからね。出てくるのは見覚えのあるマザランやサラミス、それを落とすのはカトキ(ハジメ)さんによってデザインがアップデートされたシャア専用ザクですし。カトキさんもモビルスーツのデザインに関しては、細部までこだわってアップデートされていますからね。
 ガンタンクをはじめとした車輌系も山根(公利)さんがデザインを担当されていて、山根さんは「アニメ的に動いたらどう見える」ということをすごく考えているので、そうしたそれぞれのデザイナーのこだわりも見所だと思います。
——では最後に、公開を待つファンに一言お願いします。
明貴 アバンの戦闘シーンにおいて、メインで戦う艦船は僕が描いたものですが、それらのデザインは最初の『機動戦士ガンダム』の大河原さんのイメージ、そして『THE ORIGIN』のコミックスで安彦先生が描いたもののイメージを、できるだけ再現できるよう気を遣ったので、そのこだわりをぜひ映像でチェックしてもらえると嬉しいです。

 いよいよ2月28日にイベント上映が始まる『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』。
次回のリレーインタビューには漫画原作/キャラクターデザインそして総監督である安彦良和さんがご登場です。
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