宇宙世紀事始め Ⅱ その1
「ジオン自治共和国への移行」

 U.C.0071 —— 。
 スペースノイドの優位を説く革新的な思想を以て、地球連邦政府に対し独立を要求、対峙した前指導者、ジオン・ズム・ダイクン議長の突然の死から三年余り —— 。
 サイド3、ムンゾ自治共和国は新たな国名を選択する。
 「ジオン自治共和国」
 ザビ家の主導で決定された新たな国名は、故ダイクンのファーストネームを冠することとなった。

 ムンゾ時代、政権の主導権を争っていた政敵ジンバ・ラルが国外に去り、ダイクンの遺児二人の行方も表向きは不明であった当時 —— 、ザビ家のサイド3の権力掌握は完成しつつあった。
 この時期、ザビ家は、反連邦主義を標榜したプロパガンダが功を奏し、スペースノイドの利益を優先して説いたため、コロニー市民の圧倒的な支持を得ていた。
 ザビ家が、国名にファミリーネームの「ザビ」、もしくは家長名の「デギン」を使用しなかった理由は、老獪であったデギンの深慮だったかもしれない。
 この時点で、もし、「ザビ」関連の名を用いれば、ダイクンを敬愛し続けていた市民から「権力の簒奪者」という汚名、誹謗中傷を浴びかねない危険性もあったのだろう。

 あえて、前指導者であり、伝説と化したダイクンの名「ジオン」を使うという選択。

 その巧妙なトリックに気づく者(たとえば、追い払われたジンバ・ラル)らも、多少はいただろうが、サイド3の市民はこぞって、新たな国名「ジオン」を歓迎した。

 ジオン自治共和国の政府中枢は、議長をデギン・ソド・ザビが務め、国民運動部と政治部の部長をギレンが兼任することとなる。
 国民が選出した代議士が国事に対する意志決定をする議会も存在しているため、いかなザビ家でも、議会が決した国家予算などを尊重しないわけにはいかなかった。しかし、常に主導権はザビ家が握り続けていく。

 また、新体制下では、防衛を担っていた旧ムンゾ防衛隊が名称を「ジオン共和国国防軍」と改めて改組、はっきりと軍隊であるという宣言を果たした。
 旧ムンゾ保安隊も「ジオン親衛隊」と呼び名を変え、再編成された。秘密警察の特色がさらに色濃く加味された親衛隊は、隊長キシリアの下で、さらなる暗躍をしていくことになる。

 ジオン共和国国防軍の中枢を担う若者達を養成する士官学校も、ドズル大佐を校長に迎え、近隣のコロニーから学生の募集を積極的に行うようになる。
 スペースノイドの自主独立を謳うジオン自治共和国とその士官学校は、他のサイドにあるコロニーの青年達の期待を一身に集め、人気を獲得していった。
 ザーン、ハッテ、ムーア、ルウム、リーアの各スペースコロニーから集まってきた青年達は、狭き門、超難関となったジオンの士官学校に入校すべく、英知を競いあう。
 そして選抜された若者たちの中に、ルウムからやってきたシャア・アズナブルという名の青年の姿もあったという……。

 この頃、ドズルは密かに、次世代の機動兵器の開発も進めている。
 それは、対連邦たる独立戦争を見越しての周到な準備の一環でもあった。
 ギレンも承認して、密かにエキストラ・バンチで進行していたその計画は、のちにモビルスーツと呼ばれる機動兵器の開発であったが、当時はモビルワーカーという作業機械の名を隠れ蓑にして推進されていた。
 この計画には、後年「黒い三連星」の二つ名を持つガイア、オルテガ、マッシュのチームが初期から参加していくが、さらにドズルの要請を受けたランバ・ラルも協力するようになる。
 また、エキストラ・バンチでは、アルカナクラスの民間船舶の戦闘艦(ムサイ級)へも改装なども密かに行われていったという。

 着々ときな臭い戦争への準備を進めるザビ家に対し、この時点で連邦政府が明らかな危機感を持っていなかったかというと、そうとはいえないだろう。
 事実、連邦政府はジオン自治共和国に対しても、ムンゾ自治共和国と同様に駐留軍を置き続けたからだ。さらに、密かな機動兵器開発の情報も得ていた節がある。
 しかし、武力の威嚇を以て、連邦への帰属を強いようとする連邦政府の思惑は、スペースノイドたるコロニー市民の反感と敵意を増長させてゆく。

 サイド3、ジオンが「共和国」を捨てて、「公国」を名乗るU.C.0078は、わずか7年後のことだった —— 。
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